最強無敵シルバー
寂しさは危機です
寂しい。寂しい。寂しい。
ふと、唐突に寂寥感に襲われることがある。
それが今。一人日本は部屋で消えてしまいそうな寂しさに襲われてどうしようもなくなる。
何が切欠というわけでもない。何が寂しいのかもよくわからない。
ああ、消えてしまいたい。
それは一時の気の迷い。それもよくわかっている。
気の遠くなるほどの時間、同じような状態を体験してきているのだから。
「やはり、鎖国してしまいましょうか……」
「こら待てっ!どうしてそうなるっ!?」
日本の呟きに叫んだのはイギリスだった。
はて、彼を家に招いただろうか。日本はぼんやりする頭で考える。
ああ、そういえば。
オリンピックの開催が何とかかんとか……今年はイギリスで開催されるので、それについて日本の参加がどうのこうの……別に日本に言わなくても参加したければ参加すればよい。国民の出入りを制限している訳では無いのだから。行きたい場所に行き、帰りたい時に帰ってくればいい。
「菊!聞いているのか!!」
「……ええ、そうですね」
適当に打った相槌に、さすがに鈍いイギリスもわかったらしい。
「菊っ」
寝転んでいた小柄な体を強制的に起き上がらせて、イギリスと顔を付き合わせる。
日本を見るイギリスの顔は怒っているのに、何故か泣きそうだった。器用なことだ。
「……どうしたんだ?」
「特に、どうということはありませんが……?」
「いつもの覇気はどうした?」
ふふ、と日本は笑う。
「そんないつも気張っていたら疲れてしまいますよ」
自分で言って、日本は『ああ……そうか』と一人で納得する。
そう言えば最近ずぼらな日本にしてはずっと気が張っていた気がする。だからだろうか。
「よし!それなら俺の家に来い!」
「……何故そこでイギリスさんの家に行くことになるのでしょう?」
むしろ自分の家でゆっくりするべきだ。
「いつか俺の家の庭は落ち着くと言っていただろう?」
「……そうでしたか?」
あまりに昔すぎて、忘れてしまった。
「そうなんだよ!……オールドローズの咲くほうの庭だ」
「………ああ」
イギリスの庭園といえば人工的なシンメトリーな庭園を思い浮かべるが日本が落ち着くと言ったのは古き良き、田園風景がよく似合う朴訥な田舎の風景。
「小川を遊覧しよう」
ゆるやかな流れの中で、木々の間に咲く野中の花々を愛でる。
それは確かに心誘われる。
「よし行くぞ!」
「今からですか?」
「お前がよく言うだろう。”思い立ったが雉日だ”と」
「……それを言うなら吉日ですよ」
「そ、そう言っただろうが!!!」
赤く頬を染めるイギリスに日本も笑い出す。
「……菊」
そっと寄せられた唇に、自然の風を感じた。
その後自国に戻ったイギリスは、オリンピックの主催国ということで迎えに来た国の者たちに強制連行されていった。必死に日本に『待ってろよ!勝手に帰るなよっ!!』とイギリスが叫ぶ。
それに何となく、付き合ってもいいかな……と仏心を出した日本が騒動に巻き込まれるのもあと僅か。
何しろオリンピック。
それはもうわんさか、世界中の国が集まっているのだから。
でも、あの消えてしまいそうな寂寥感はいつの間にか消えていた。