最強無敵シルバー
先取りって大事ですよね
日本発豪華客船『やまと』完成!
そんなニュースが世界を駆け巡ったのは世界会議のほんの二日前。
つまりとってもタイムリーな話題だった。
当然のことながら会議に顔を出した日本にも各国から質問が飛ぶ。
「何か凄い船らしいね。詳細は全然わかってないけど。でも日本ってもう飛鳥とか持ってたよね?」
まずはフランスが興味津々の顔で日本にお伺いをかける。
「お、俺のところに来たら乗ってやってもいいぞ!」
相変わらずイギリスは偉そうに言うが、『知りたくてたまらない』と顔に書いてある。
「ハンバーガーは食べられるのかい?コーラはもちろん用意しているよね?」
ポテトをハムスターのように頬張りながらアメリカも参加する。
「菊っ!我はそんなこと聞いてないあるよっ!!いつ作ったあるか!?」
にーには寂しいあるっ!!と半分拗ねながら中国は各国とともに日本を囲む円陣に参加する。
他の国々も耳を澄ませて日本の言葉を聴いている。
そして当の日本はゆったりと椅子に腰掛け、日本茶を飲みながら小さく溜息をついた。
「まあ、日本版ノアの箱舟といったところでしょうか」
「「「「「「え?」」」」」」
日本の言葉に各国は揃って首を傾げる。
「我が国は温暖化対策も地震対策も問題ありません。不況なんて何それ美味しいの?な感覚です」
「・・・・・・・・。・・・・・・・・」
各国が沈黙するなか、日本は続ける。
「しかし、残念なことにこの地球上に存在しているのは我が国だけではありません。様々な国が存在し、それぞれの営みをなさっておいでです
そこで言葉を区切った日本は中国とアメリカに視線を走らせる。
その視線の鋭いことといったら、凍りつきそうなほど。
「もし地球自体が環境汚染、世界大戦など・・・様々な理由で寿命を迎えてしまった場合、我が国も大変腹立たしいことながら道連れとなることは間違いありません」
「・・・・・・・・。・・・・・・・・」
「ではどうすれば良いか。名案が思い浮かびました。・・・というわけで造られたのが『やまと』です」
満足げに頷く日本に対して、各国はまだピンときていないらしい。
「えーと、菊ちゃん。海に逃げるなら、今とあまり変わらないんじゃないかな~?」
日本はどことも陸続きとはなっていない島国だ。
巨大な船に乗っているのと同じだろう。
「菊君。その”船”て目的地はどこ?」
ロシアの問いかけに、日本は鮮やかに笑った。
「ロシアさんのご想像の通りでは?」
「へえ・・・僕がどんな想像をしたと思っているのかな?」
びょぉぉと何故か二人の間に吹雪が吹き荒れる幻が見えた。
「ヴぇ~菊ぅ~全然わかんないよぉっ」
日本に纏わりつこうとしたイタリアの首ねっこをドイツが掴んだ。猫の子のような扱いだ。
「日本。すまないが、わかるように教えてくれないか?」
ドイツの殊勝な問いかけに日本は苦笑を浮かべた。最初からドイツのように問いかけてもらえれば、日本ももったいぶるつもりは無い。
「”やまと”は船は船でも『宇宙船』です」
アメリカは食べかけのハンバーガーを手から落とし、イギリスは逸らしていたはずの顔を向きなおし、中国は目を細め、ロシアはやっぱりねと笑い、フランスは額を押さえた。
「地球が駄目なら、宇宙に行くしかありません」
至極当然のように日本は言ってのける。
「いやいやでも菊ちゃんっ!幾らなんでも日本国民全員乗せる船なんて・・・」
そこまで巨大な船を造っていたのならば幾らなんでもどこかの国が気づくはずだ。
「大丈夫です。”やまと”=”日本”ですから。その時になったら我が国ごと宇宙に出発です」
「「「「「・・・・・・・・。・・・・・・・・」」」」」
うわー本気だ。本気でやっちゃったんだっこの子っ!!
「皆さん、どうぞお元気で」
にっこり。
その顔には『てめえらいい加減にしねえと本気で見捨てるぞ』と書いてあった。
もちろんその後の各国の動きは言うまでも無いだろう。