最強無敵シルバー
他人事ですが何か
日本は平和主義者である。
自分からわざわざ戦おうなんて疲れることはまず考えない。
・・・ただの面倒臭がりなのかもしれないが。
「キナ臭いですねぇ・・・」
耳に入ってくる情報に日本は静かに茶を飲みながら呟いた。
「退くぬ退けなくなったというところでしょうが・・・他国のことに首を突っ込むからこういうことになるんです」
「いやでもね菊ちゃん」
「お黙りなさい」
「はい」
殊勝に正座して日本の様子を伺っているフランスは口を閉じた。
「・・・菊、煩くてシェスタ出来ない・・・」
「まぁ、リビアさんに一番近いギリシャさんですから迷惑は被っているでしょうね」
本当なら近くとも無関係を貫きたかったギリシャだが、欧州諸国にはつい先日多大なる迷惑を掛けたばかりで強気(?)にも出られなかったのだろう。
「それで、お二人ともどうして私のところに?」
「アーサーの奴をどうにかして欲しいなぁと」
「アーサーさんを?何故?」
「あいつの性格上、一旦言い出したことは引っ込めないだろう?」
「そうですね」
頑固者でプライドは国一倍高い。
「しかし今回のことはフランス自体も足並みを揃えているとお伺いしておりますが?」
「意地悪な菊ちゃ~ん…知ってるでしょ?無関心決め込もうとしたらいつもなら誰よりも真っ先に顔出してくるはずのアルが予想外に及び腰だったもんでこっちにお鉢が回ってきたの」
半泣きのフランスに、くすりと笑う。
「自業自得です」
突き落とされたフランスはがーんと衝撃を受けて打ちひしがれた。
「リビアさんのところは独裁政権とはいえ、それなりに上手く治めていらっしゃったのに余計な茶々を入れるから国の内外で混乱が起きて・・・迷惑しているのはそこに住む方々でしょう。無関係な市民を守るため?空から攻撃しておいて、本当に無関係な人間が巻き込まれていないとでも?全く、あなたがたのご都合主義な言い分には笑いも起きません」
しかし日本は舌鋒を緩めない。
「私には他国のことなど関係ありません」
「菊ちゃん・・・っ」
フランスが絶望に顔を染める中、ギリシャがくいっと菊の和服の袖を引っ張った。
「・・・リビアの郷土料理・・・クスクス、ラクダ肉美味しい」
ぴくり、と日本の肩が揺れた。
「菊、迷惑、ごめん・・・でも、人傷つくの、嫌だ」
日本はギリシャの顔をじっと見つめた。今回フランスがイギリスでは無くギリシャを連れてきたあたりが日本が何で動くかよくわかっているということだろう。
(まぁ、別にそれを知られても構いませんが・・・譲れないところは譲るつもりはありませんし・・・)
日本は胸中で他人事のように呟きながら、二人に見えるように大きく溜息をついた。
「今回だけですよ。次からは、あてにしないで下さいね」
「菊ちゃんっありがとうっ!!」
「菊、感謝」
抱きついてこようとするフランスをギリシャが遮り、日本の手をとった。
「それでは、リビアに参りましょうか?」
「へ?」
イギリスじゃないの?
「日本っっ!!!」
「確かに、本場のクスクスは美味しいですね。ラクダの肉なんて珍しいですし・・・」
「日本っ!!!!!」
リビアに到着した日本がしたことは、『観光』だった。
二日前に到着して、砂漠を楽しんだり文化遺産を見て回ったり、名物に舌鼓を打ったりと満喫していた。
もちろん全て必要経費としてフランスに請求する。
そんな日本がギリシャからの情報であったクスクスを食べているところへ周囲の迷惑顧みず飛び込んできたのはイギリスだった。
「おや、アーサーさん。こんにちは」
「おや、じゃねーよっ!!おまっ・・・何でこんなところに」
「観光です」
「か・・っ」
「アーサーさんも如何ですか?美味しいですよ」
全く他意はありません、という表情を浮かべる日本にイギリスは苦味ばしった表情を浮かべる。
新興国でも無い、付き合いだけは長いイギリスが騙される訳も無い。
「・・フランスに頼まれたのか?」
「何のことでしょう?」
お互いにわかっていながら、あくまでとぼける日本にイギリスは舌打ちする。
イギリスをどうにかして欲しいと頼まれたが、真正面からイギリスに会いにいっても意固地になられるだけでたとえ日本が頼んだところで素直に頷きはしないだろう。
ならば日本がリビアに居れば、イギリスも攻撃を続けることは出来ない。
「イギリスさんもご一緒にどうぞ。せっかくいらしたんですから」
向かいの席を勧めれば、不承不承ながらもイギリスは腰掛けた。
「・・・他国のことには口を出さないんじゃなかったのか?」
「ええ。ただの観光です」
「おい」
まだ言うか。
「文化は長い時間をかけて人々が作り上げてきたものです。壊す時は一瞬ですけれど」
「・・・・・・・」
「このクスクスの味も。人々が試行錯誤して作り上げたもの。美味しいですよ」
「それをっ・・・守ろうしてんだろうが」
「誰が、貴方にそれを頼みました?」
「っ!!」
スプーンを置いた日本は、感情を映さない黒の瞳でイギリスを見つめた。
イギリスは応えられずに拳を握る。
「・・・まぁ私にはどこの国がどこの国を攻撃しようと守ろうとどうでも良いんですが」
「おい」
がくっとイギリスの肩が落ちた。
「アーサーさんが忙しいと、遊びに来て下さらないでしょう?」
「は?・・・・っ!!!」
ぽかんと惚けた表情を浮かべたイギリスが、日本の言葉の意味を悟って瞬時に顔を真っ赤にした。
「な、おま・・っそれはっ」
(ちょろいもんです)
日本は笑顔を浮かべながら、心の中で舌を出した。