最強無敵シルバー
兎追いしかの山
「初めまして日が沈む国の方。日が昇る国、日本です」
稚い様子で、そう挨拶する日本に中国は絶句した。
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「初対面の印象は最悪だったある」
世界会議の後、珍しく二人だけで食事となり、些か酒が進んだあたりで中国が切り出した。
「突然何ですか?」
「お前のことある!」
ぎろりと睨まれた日本は小さくため息をついた。
「そんな大昔のことを…悪気はありませんでしたよ」
「余計悪いある!」
これから友好を結ぼうとする国に対して『沈む』は無いだろう。
「私もまだ幼かったんです。だいたい気に入らなかったなら追い返してしまえば宜しかったでしょうに」
絶対的優位に居たあの頃の中国ならば難なく実行出来ただろう。
「う…可愛い過ぎるのは罪ある!」
意味がわからない。
「小さな日本は目に入れても痛くないほど可愛かったある。そんな日本を追い出すなんて我には出来なかったある!」
だから卑怯だと言いたいらしい。そんなこと日本の知ったことじゃない。
「あの頃の日本は素直で本当に可愛かったある・・・」
中国の目が遠くを見つめる。困った人だ。
「過去ばかり振り返るのはお年を召した証拠ですよ」
「お前だって世界の5本の指に入る年寄りある!」
「そうですよ。だから常々年寄りは労って下さいと申し上げているではありませんか」
日本の夢は隠居。絶賛引きこもり生活だ。世界がなかなか許してくれないけれど。
「お前はまず我を労るある!」
「労る必要を感じられないほどお元気ではありませんか」
最近の中国は元気だ。活気もある。ただ手段を選ばず我武者羅にやってきた歪みは現れている。
このままでは重大な事態を招きかねない。
「お年なんですからお身体には気をつけて。特にこれ以上環境汚染を広げるようであれば・・・」
ことり、と日本は猪口を置く。
「地殻変動が起きて大陸がバラバラになるかもしれませんね」
「・・・・・・」
さぁぁと中国の顔から血の気が引く。一気に酔いも醒める。
普段温和な相手ほど怒らせると恐ろしい。
日本の言葉は冗談のようで冗談では無い。かなりどこまでも本気であることは長い付き合いで中国は身にしみている。
(うう・・・昔はもっと素直で可愛かったある・・・っ!!)
中国の脳裏に『哥哥!』と愛らしい笑顔で見上げる幼い日本が浮かびあがる。
・・・妄想だが。
「現実逃避も妄想も勝手にしていただいて構いませんが、呆けるのは引退してからにして下さい」
近所の国が迷惑なので、とどこまでも冷ややかな日本に涙が出そうになる。
「どうしてお前はそんなに冷たいあるか!そんなに我が嫌いあるか!?」
半泣き状態の中国の顔を無言で見つめて日本は首を傾げる。
「いいえ。好きですよ」
「そうあるね!我のことが嫌い・・・あ・・・え?」
振り上げられた中国の手が固まる。顔も固まり・・・視線だけがしげしげと日本を見つめる。
「き・・・菊?菊・・・今、な、何て言ったある・・・か?」
「聞こえなかったならば、聞き流していただいて結構です」
「好きって言ったある!?好きって言ったあるなっ!!!??」
触れ合わんばかりに顔を近づけてきた中国を日本は迷惑そうに押しのけた。
「この中国さんの秘蔵の紹興酒。さすがに美味しいですね」
「きーくーっ・・・・・ってもう全然残って無いあるっ!」
弱そうに見えて酒豪の爺’Sである。この二人に付き合える国は少ない。
「ごちそうさまでした。次は白酒を下さい。確か蔵にありましたよね」
「・・・人の蔵の中身まで把握するなある!」
「仕方ないでしょ。少しの間とはいえご厄介になっていたんですから。大幅な模様替えをされていないなら、何がどこにあるかも憶えていますよ」
それは確かに日本が中国の元で過ごしていた証拠だ。
二人の蜜月。
「・・・結局、我はお前には勝てないある・・・」
力なく肩を落としつつも、日本のために白酒を用意する中国だった。