最強無敵シルバー

堪忍袋の緒が切れた



 そう言って徐に立ち上がった小柄な人が世界を怒涛の混乱に陥れるなど誰も予想しえなかった。
 世界は少しの争いはあってもほどほどに平和だった。






・・・・・・・・・・・・・・・





 一夜開けた世界は大騒動となっていた。

「おいっ!どういうことなんだ!!」
「そんなことは俺が聞きたいよ!」
「またお前が迷惑かけて日本を怒らせたんじゃないのかっ?」
「知らないよっ!菊とは一ヶ月近く会ってないし…君こそ日本を襲ったりしたんじゃないかい?」
「ばっ馬鹿がっそんなことするわけないだろっ」
 正しくは出来るわけがない、だが。
「ともかく、菊と誰も連絡がとれないっていうのは菊が故意にそうしているとしか思えないね」
 親日国と言われ、日本が甘いイタリアでさえ全く連絡がとれないのだ。
「中国はどうなんだ?」
「飛行機飛ばしたけど、日本に近づくと強制Uターンで自分の国に戻っちゃったらしいよ」
 そこまでくると明らかに故意だ。日本の意図で世界との関わりを一切遮断しているのだ。
 問題はそれが何故なのかということだ。
 誰に聞いてもわからないと言う。二日前に会っていたドイツも日本が怒っている様子は無かったという。
 まじめなドイツの言葉だからこそ信憑性がある。

 鎖国。

 嘗て日本がとっていたその政策が世界の頭に浮かんだ。
「どうしたらいいんだぞ」
 今はいい。日本の経済は世界に大きくは関わっていないせいで市場に混乱はない。
 だが日本という国があってこそ世界は互いに牽制しながら仮初めの平和を保っていたのだ。
「何とか日本とコンタクトをとる方法を考えないとな」
 技術力の高さは群を抜き、地理的条件から防衛するのにこれ以上は無い。
 通常の手段でも違法な手段でも日本と誰も連絡をとることが出来ないのだ。
 時間が経てば経つほどに騒ぎ出す国は多くなるだろう。
「・・何が菊を怒らせたんだろう・・・」
 アメリカにしては珍しく意気消沈している。アメリカにとっても日本は特別な存在だ。
 時に厳しく、時に優しく、時に冷たく、時に容赦無い。だからこそ、特別なのだ。
「おいっお前ら!」
「うるせぇっフランス!!」
 お前の相手をしている暇は無いとばかりに叫びかえしたイギリスに、フランスも負けじと叫んだ。
「鳩が日本からの手紙を持ってきたんだよ!」
「日本からの!?・・・貸せっ!」
「・・・・鳩のところは疑問にも思わないんだな・・・別にいいけど」
 イギリスが開いた手紙をアメリカも覗き込む。



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    前略 世界の皆様。

      太陽の眩しい季節が到来し、日々汗と湿気に苦しんでいらっしゃることと
      思います。かくいう私も、日々の寝苦しさに堪忍袋の緒が切れました。
      日々、快適な世界を夢見てなりません。
      いえ、夢は夢のままではいけません。実現させなければなりません。
      そこで皆様に提案です。
      この夏の暑さの原因たる、CO2。その排出量の削減目標を早急に今すぐに
      一ヶ月以内に達成させて下さい。
      それまで、残念ながら皆様とお会いすることは無いでしょう。
      鎖国した日本はとても快適です。快適すぎて、もうこのままで良いのではと
      思い始めているほどです。
      それでも構いませんが、この暑さの原因を世界の皆様で解決していただければ
      またお会いすることも出きるでしょう。
      では、お励み下さい。
      ごきげんよう。
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「「「・・・・・・・・。・・・・・・・・・」」」
 日本の手紙はわかりにくいが、要するに『お前らのせいで暑くてしょうが無いからキレた。さっさとその原因を解決しないとこのまま引き篭もる』とうことだ。
「菊ちゃん・・・農業大国の俺のところは無理だよ・・・」
「つーか、アルフレッド!てめぇのところを早急にどうにかしろっ!!」
「俺のところより、今なら中国だろっ!?」
「まーまー・・・とりあえず、どうにかしないと菊ちゃん本気で引き篭もっちゃうよ?」
 本気と書いて、マジと読む。
 日本の本気は恐ろしい。
「・・・わかったよ。やるよ!俺はヒーローだからねっ!ヒーローに不可能は無いんだぞっ!」
「御託言ってねぇでさっさとやれ!」
 クルックポー、と気が抜けずにはいられない鳩の鳴き声が窓越しに響いた。



 その後、各国はCO2排出量削減に、必死に…そう鬼気迫る様子で取り組んだ。
 後日、鎖国を解いた日本は言う。

「だって、暑かったんです」