堕天使


 よく言うだろう?
 『天使の顔をした悪魔』とな。

 それはまさに、あいつだと俺は思う。
 ……は?そんなことは無い?
 ははは、笑わせてくれるな。
 あいつが優しい?……お前、相当たぶらかされてるぞ。
 あいつのは『優しい』というのでは無い。『無関心』というんだ。自分の興味の無いものはとことん無視する。
 そう見せてるだけだ?そんなわけ無いだろう……おめでたい頭をしているな、お前。
 ほら、零が居るだろうが……あいつだって一応そこそこに力のある悪魔なんだが、秋におちょくられたって必死に 耐えるだけで反撃なんかしないだろ?
 理由は簡単、あいつが悪魔より悪辣でえげつなく…………強いからだ。
 そこは納得するんだな。え?あいつの強さには底が見えない?……そこがあいつの悪どいところだ。
 尊敬してる?
 ………………まぁ、俺も他人にわざわざ忠言するほど親切じゃないが……人生投げるのはまだ早いんじゃ ないか?もう少し相手を選んだほうがいいぞ。
 結構長く一緒にあいつと暮らしてるんだろう?……わかってきそうなものだがな。
 わからない?わかったと思っても……すぐにわからなくなる?
 そうだろうさ。あいつは絶対に素を見せないからな。俺だってあいつの本気と冗談は区別がつかない。
 恐ろしい奴だよ。
 は……?でも可愛いところもある……?
 ……もしかして、それはあいつのことか?
 お前、眼科に行ったほうがいいぞ、今すぐ。あいつが可愛く見えたなんてこの世の終わりもいいところだ。
 確かに外見は綺麗だが……。それで補っても余りが残らないあの性格がな・・・・。
 何?弱点……?てあいつのか?
 知らないし、知ってても俺は言わないぞ。まだ命は惜しいからな。
 だいたいそんなもの知ってどうする?挑戦でもするのか?……は?守りたい?
 ……。…………。
 ……………………。
 念のために聞いておくが……その対象は……もしかして、あいつ、なのか?
 いや、まぁ……俺もここまでくると何も言えないが……。
 いや、十人十色とはよく言ったものだ。




「カ~イ。珍しくザギと仲良くお話し?」
「……」
 神出鬼没。誰にも気配を感じられることなく、秋は店先に立っていた。
 まるで、今そこに。空間から現れたように。
「秋、お出かけになったのでは?」
「そうだよ。ここに、ね」
 にこりと邪気なく浮かべられた笑顔が、何故かカイとザギを不安にさせる。
「カイ。一つ教えてあげるよ」
「……何だ?」
「類友」
「……っ!?」
 カイが目を見開き、秋があははと笑い出す。
 ザギはその光景に、何ともいえず情けない微笑を浮かべていた。