触レテ
その人は、顔だけでなく何もかもが美しい。
すらりと伸びた美しい手足。
桜色をした美しい爪。
服からのぞく、乳白色のうなじは輝くよう。
幾度目にしてもその美しさが損なわれることは無い。
完璧な美をあの人は持っている
「ザギ」
珍しく食事の買出しに付き合った秋は、持参の買い物袋に食料を入れて帰途へと
ついた座木の隣を何をするでもなく歩いていた。
……はずなのだが。
どうした気まぐれか、座木の空いたほうの腕へ腕をからませてきた。
「秋?」
秋からそんなことをしてくれるなど滅多になく座木は単純に嬉しく思いつつも、
不審さをぬぐいきれず、頭一つ下にある秋へと視線を下ろした。
「いいから、いいから♪」
だが秋は楽しそうに……企むようにますます座木へと身を摺り寄せる。
座木は顔色こそ変えないものの、動悸の激しさまでは抑えることが出来ない。
きっと秋にはバレてしまっているのだろう。
(もしかするとそれを楽しまれているのかもしれない……)
だが、それでもこうして秋と触れ合えるのが嬉しい座木だった。
振り回されるのは慣れている。
また、それをよしとする座木はかなりの変わり者だと言えよう。
「……今日はどうされたんですか?」
「ふふふ、どうしたんだろうね?」
座木の鼻先で秋の髪が軽やかに揺れて、思わず手をのばしたくなる。
手触りのいいそれが、どれほど気持ちの良いものか座木は知っていた。
「秋、……触れてもよろしいですか?」
「聞くまでもない。座木ならいいよ」
さらっと言われた言葉がどれほど重大なものか、手の震えが止まるほどに座木は息をのんだ。
「秋……」
あいにく両手はふさがっていて、秋に触れることは出来ないがせっかく許しを
もらったのだからと座木はそっと前にかがむと、秋の額へ口づけを落とした。
普段の座木ならこんなことは絶対にしないだろう。
何しろここは、人気が少ないとはいえ天下の往来なのだから。
相当嬉しかったらしい。
「ザギ、唇に、てあたりじゃないのがお前らしい」
「唇、のほうがよろしかったですか?」
「さぁ、どちらでも。僕の中で重要度はそれほど離れていない」
ほのかな笑いに座木の心臓がとくん、と脈打った。
本当のところを言えば。
秋の唇に触れれば、その先を抑える理性が怪しかったから。
座木は額にとどめたのだ。
秋の甘い吐息に触れれば、座木は溶けてしまうだろうから。
そんな温かい空気の中、二人は家へ到着した。
「しかし、いったい何があったんですか?」
家に到着した秋は窓に近寄り外を見ていた。
座木の問いかけに秋は振り返ると小さくくつくつと笑う。
「うん、面白いものが見れた」
それ以上は秋は何も言わなかった。
座木は嘆息したものの、とりあえず自分は役得だったのだろうと上機嫌で食事の支度にとりかかる。
その背中を見送り、秋は再び外へと視線をやる。
そして、にやりと小悪魔な笑みを浮かべたのだった。
さて、外には何があったのやら。