楽シイネ
「ね~ゼロイチ~ゼロイチ~」
無視されるのも構わず、バイトに精を出している零一に秋は話しかける。
「犬が嫌いな人ってさ~」
そして、誰も相槌など打つことなく、誰も聞いていないというのに秋は話し続ける。
こいつはこういう奴だ。
零一はいつもの如く相手にしてられるか、と日々の糧を得るためにもビールケースを持ち上げた。
「こ~んな小さい犬とか、見るからに大人しそうな大型犬でも怖がって、
しでも近寄ろうそぶりを見せるものなら……」
しかし、いつものことながら。
何故、秋が犬の話など始めたのか皆目検討がつかない。
……はっ!いかん!無視しろ、無視!!
「凄く怖がって逃げるでしょ。しかも全力疾走」
……そう言わて見ればそうかもしれない。
秋の言う光景はわりと簡単に頭に重い浮かべることができた。
「でもそれは大間違いなんだよね」
「何で?」
思わず問いかけてしまった零一。
しまった、と思ったが秋は何も言わずに話しを続ける。
「犬は元々、狩りをする生き物だよ。逃げる獲物を追いかけて、追い詰める。
それで食べちゃうんだ。ま、犬はそこまでしないけど。本能で逃げて
いくものは追いかけてしまう。だからね、犬から逃げるのは逆効果」
「……なら、どうするんだよ」
悪魔の自分が犬如きに追いかけられるとは思っては居ないが、それでも
気にかかる。
「簡単さ。その場で止まって目を合わさないように無視するの。犬ってかしこい
から構ってくれない相手には興味持たないからね」
「ふーん……」
だからそれがどうした?
……と問おうとして、唐突に閃いた。
「……秋、お前……」
「ぷっく……ははっはははっっ!!」
苦虫を潰して、飲み込んでしまったような零一の顔を指して秋が笑い転げる。
秋は零一を逃げる人間に例え、自分を追いかける犬だとして話をしていたのだ。
それをまるっきり否定できないところが、またむかつく。
確かに。
自分は秋が大嫌いだ。それはもはや恐怖に近いかもしれない。
……あまり、認めたくはないが。
だから、逃げる。逃げて逃げて、追いかけてこないところまで。
でも、こいつはどこまでも追いかけてくるのだ。
そして、零一に追いついて。
『ご苦労様v』と噛み付くかわりに笑って不幸を運んでくる。
全く性質が悪いにもほどがある。
では。秋が言ったように目を合わせないように無視をして……。
それでもこの犬(秋)は追いかけてくるのをやめない。
これ幸いにとどんどん厄介ごとを増やしていく。
この犬(秋)には対策と傾向が無い。
無いから次の行動がわからない。
だから自分はいつも振り回されて……結局、損をしている。
全く、悪魔の俺から見ても悪魔のような奴だ。
「……目を合わさないで、無視して、それでも追いかけてきたら?」
物は試し、未だ笑い転げる秋に聴いてみた。
「そんなの簡単だよ」
体を起こした秋が零一の顔を覗き込む。
「いい子だね、て頭を撫でてやればいいのさv」
秋は極上(極悪)な笑顔でにっこり言い切った。