関係


「あの時の俺ら兄弟みたいだったてさ、蘭が」
『あぁん、兄弟?』
 電話の向こうの声が不機嫌そうになった。
「何だよ?」
『ちゃうちゃう、俺はそんなつもりでお前んとこ行ったんやない。俺が誘ったとこ やったのに、あんなことになってしもうて・・・あの後、お前気ぃ抜けたみたい になっとったやろ?』
「そうか?」
『そうや!!やっぱそういう時に慰めるんが俺の役目やろ!』
「どうして?」
『だって、ほら俺はお前の恋人やし、な♪」
「はぁぁぁ?」
 新一は電話の向こうの相手に見えないけれどジト眼で睨みつけた。
「誰が恋人だよ、だ・れ・が!!」
『そんなん決まってるやん、お前の恋人なんやって』
「勝手に決めんな!バーローッ!!!そんな用ならきるぞっ!!」
『あああっっ!!待ってぇなっ!!ちょっとした冗談やがな!!ほんま工藤は ノリが悪いねんから』
「悪かったな、じゃあなっ!!」
『あああっっ・・・』
 プツ。ツーツーツーツー・・・・
 新一の怒りをかった服部はあえなく電話をきられてしまった。
 

「ったく!何なんだ、あいつは?」
 新一はコナンの体で腕を組むと電話を睨みつけた。
「どうしたんだ、新一?」
 背後で新一を呼ぶ、声。
 鬼の編集者を煙のようにまいて、忍んで帰ってきた新一の父親、優作だった。
「いや、何でもねーよ」
「というわりには・・・」
 優作が新一の目じりに触れる。
「このあたりが釣りあがっているみたいだがね」
「・・・うるせー」
 その手を払って書斎へと戻る。
「今の電話の相手はお前とよく比較される西の名探偵、服部平次君だろう? 私も『息子がお世話になってます』て挨拶しておきたかったなぁ」
「はん、世話してるのはこっちだぜ。毎度毎度事件に巻き込みやがって」
「だが、君もかなり楽しんでいるようだけど?」
「……悪いかよ」
「いや?事件に巻き込まれるのはあながち服部君のせいだけとは言えない 気が私にはするがね、新一」
 なにしろ、誘われなくとも事件に巻き込まれる毎日なのだから。
 面白そうに息子を眺める父親に素直に感情を表すのも馬鹿らしくて新一は 背を向けて、ソファに腰掛けた。
「そろそろ、編集者から電話がかかって来るんじゃねーのか?」
「おや、来て欲しいのかい?」
「嫌味ばかり言う親父にはな」
「しばらく会わないうちに・・・とても素直になったようだな」
「それは、どうも。偶にしか会えない父親だからな」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 新一に言い負かされたような優作だったが、やはり食えない男。
 簡単には終らせない。
「兄弟みたいだって?」
「・・・蘭がな」
「そうだな、新一と彼は中身はよく似ているかもしれないなぁ」
「どういう意味だよ」
 あんな単細胞と一緒にされたくはない。
「わかっているだろう。真っ直ぐなところさ」
「・・・・・・・」
「しかし」
 優作の意味深なまなざしに油断なく身構える。
「もっと君と似ている相手がいることも確かだね」
「・・・・・・タヌキオヤジが・・・・」
 新一の言葉に優作はくすくすと笑いながら睨みつける幼い体を抱き上げた。
「なつかしいね、この重み」
「・・・下ろせよ、俺はもう子供じゃねーんだから」
「子供だよ、君はいつまでも私の・・・私たちのね」
「・・・・・・」
 時おり見せる、父親の真剣な眼差し。
 それが新一は苦手だった。

「だから、新一のことなら全てが知りたいと私は思う。駄目かい?」
「駄目だって言ってもやめる気は無いんだろ」
 抱き上げられ、目線を同じにされて・・・子供扱いされているようだが、この 父親はいつだって自分を対等に扱ってきた。自分の意見はちゃんと尊重してくれた。
 だが。
 どうしても譲れないことは絶対に譲ってはもらえなかった。
「さんざん好き勝手に俺の周りを調べさせておいて今さら、だろ」
 新一の言葉に優作は瞳を和ませた。
「確かに、今さら・・・だな」
「・・・いいよ、父さん」
「・・・・・」
「子供のこと心配するのなんて、親の義務みたいなもんだしな」
「おや?親にもなったことのない君がそんなことを言うとはね」
「理解ある子供を持って嬉しいだろ?」
「・・・・まったくだ」
 二人は顔をあわせて・・・笑い出した。


 しばらく笑った後、新一は呆れたように父親を見つめた。
「そんなこと言いにわざわざ帰ってきたのかよ。親ばかだって言われても仕方 ないぜ」
「子煩悩なんだ。新一君が可愛くて可愛くて、夜も眠れぬほどでね」
「はっ」
「だから今日は一緒に寝よう、新一君」
「・・・・・・はぁ?俺は添い寝のいるような年じゃないけど?」
「まぁまぁ、私がしたいんだから」
 じたばたと腕の中で暴れだした新一をしっかりと捕えて優作は寝室に続く扉を 開いた。








 その後の新一の運命は闇の中。