匂い立つ高雅なる華
七
滝壷の奥からのそりと現れたのは、巨大な蛇。 鎌首を擡げて、しゅーしゅーと舌を出し、周囲の状況を感知しようとしている。 水を弾く皮膚がぬらりと光り、ナルト以外のこの場に居る者たちは生理的な嫌悪感を感じてでぞわりと背筋を粟立たせた。特に霧忍の反応は著しく、ひっと悲鳴をあげると身動きのとれない状態にも関わらず必死で逃げようとしている。 そんな緊迫した中で、ナルトは内心がっかりしていた。 大蛇丸の操る大蛇の半分くらいしか無いのではなかろうか…まぁ、あれは規格外だと考えたとしても、ナルトの遊び相手にはかなり物足りない。 それでも仕方ない。これが今回の任務だ。 ナルトは懐から徳利を取り出すと、『ナーガ』が居ることなど気にもしない様子で無造作に滝に近づき、徳利に滝壷の水を満たす。あまりに自然な動作だったために、中忍たちも声が出ない。 『さて、どうするかな』 頭上からナルトの気配を伺っている『ナーガ』を見上げる。基本的に蛇は目が良くない。相手は『ナルト』を見ているのではなく、『感じ』ているのだ。だからこそ口寄せされる動物たちは、人間よりも遥かに正しく『ナルト』を認識する。 自然界の掟、食物連鎖。その頂点に位置する存在に対して、彼らは『従順』だ。不用意に飛び掛ればヤられるのは己自身だと、本能でわかっている。 賢い動物ほどナルトを警戒する。 しかし、残念ながら【ナーガにとって】、ナルトはただの『餌』に感じたらしい。 その点において、本当にごく『普通』の大蛇というわけだ。 ただ分泌する成分が、利用価値があっただけで・・・・・・・・・ だが『ナーガ』は貴重なサンプルだ。 薬と毒は背中合わせ。使いようによっては、この分泌物は色々と役に立ってくれるだろう。 だからこそ、木の葉の里も依頼を受け、依頼料とコレとの『一挙両得』を狙ったわけだ。おそらくナルトが持ち帰ったサンプルは依頼した大名には渡されず、木の葉が懐に抱え込むだろう。 大名には適当な成分の入った別物が事前に用意されているはずだ。 そのあと、この『ナーガ』は回収されることだろう・・・・・秘密裏に。 そんなことはわかっている。よくあることだ。・・・ただ、ナルト『中忍』に依頼されたのはあくまで『サンプル』を持ち帰ることだ。『ナーガ』自身では無い。 顎を開いて襲いかかってくる、ナーガを余裕でかわしながらナルトは思案する。 ならば。 ナルトは、ナーガを避けた身を高く跳躍させた。 ・・・・・・影分身を地に置いて。 自身はその気配を一切消す。 未だ地上にナルトが居ると勘違いしたナーガは己の天辺に居るナルトに気づいていない。 足にチャクラを篭める。 「・・・・・・しばらく、寝てろ」 ナルトの強烈な蹴りが入り、ナーガは地に叩きつけられた。 そのまま目を回し、ぴくりとも動かない。 鮮やかな仕儀だった。 結界を張っていた中忍たちは、いざとなればどちらかが結界の維持を負担しナルトに加勢する心積もりで居た。・・・全くそんな必要は無かったわけだ。 強い。 ただ、鮮やかに強い。 息も乱さず、地上に降り立ちたナルトに、雲間から差し込んだ光が降り注ぐ。 光よりも、猶、眩く。 まるで彼自身が煌いているように。 金色の花弁と。 白い花身。 青い宝石が、いと尊く、包まれている。 嗚呼。 朱い唇が、匂やかに笑みを形どる。 気を失ったナーガを、ナルトが自身で張った結界で封じ込めた。 たとえ霧忍が何かに気づいたとしても、そっとやちょっとでは破れない強力な結界だ。 そこで、ナルトは中忍たちに結界の解除命令を出した。 空を覆っていた厚い雲は、徐々に薄くなり・・・明るくなっていく。 「速やかに撤収する」 ナルトは言葉を掛けた。 まるで全てが、彼=『うずまきナルト』の手の内にあったような鮮やかさ。 犠牲者は一人も無く、依頼任務は完遂。 ナルトの力を傍で見ることが出来なかった下忍たちも、結界を維持しつつナルトの動きを見ていた中忍も、誰もが彼の下す命令に膝をつき、頭(こうべ)を垂れた。 初任務とは到底思えない完璧なでき。 もしや自分たちは偉大なる『歴史的瞬間』に立ち会ったのでは無いだろうか。 言葉にならない昂揚が胸を満たす。 この任務を初めとして、木の葉の里歴代最強の火影として世界に名を馳せることになる『うずまきナルト』の歴史は表舞台に現れることになる。 |
書いてて…見事に何の絡み(CP)も無い話だなぁと(笑)
・・・ま、いいか。ナルトが出てれば(おい)