風邪っぴき












 木の葉の里は静かだった。
 夜だから、というせいばかりでは無く。今現在、悪性の流行性感冒が蔓延しているせいで。
 アカデミーも一週間前から休校で、子供たちは外出を禁止されている。
 街を歩く人影はほとんど無く、夜ともなれば皆ぴっちりと扉を閉めている。

 ただ一人、ナルトは禁足の森にある家で珍しくも任務を与えられることなく過ごしていた。
 最近では一人になることも滅多にないだけに貴重な時間だ。
 何しろ、イタチと仕事を組むようになってからというもの暇さえあれば・・いや、無くても無理やりにでも作ってイタチはこの家にやって来る。最初こそ鬱陶しくてたまならなかったナルトだったが、悲しいことに慣れてしまった。
 だが今日ばかりはイタチも来られない。
 彼も感染したのだ。医者には絶対安静を言い渡されたらしい。
 あのイタチさえも侵すウィルスとは・・・なかなか恐ろしいものがあるが、ナルト自身は身に飼う九尾のおかげか病にかかることは無い。体内に入った瞬間にウィルスが殺されるからだ。

 ぼんやりと、さやけき夜の空と月を見上げ・・・・・・・

 視線を戻すとイタチが居た。

 ・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・。

「は!?」

「な・・ナ゛ヴド・・」
「うわ、すげー鼻声。・・て何でお前来てんの?」
 イタチの顔は熱があるせいで赤く、息づかいも早く・・典型的な症状をみせている。
(つーか・・大人しく寝てろよ・・・)
「ナ゛ヴド・・」
「わかったわかった、その声でしゃべるなって」
 体調管理も優秀な忍としての条件のはずなのだが・・と頭痛を覚えながらナルトはイタチの手を引き、布団の上に転がした。
「大人しく寝てろ」
「・・・・・・・」
 イタチの視線はナルトから逸らされることなく、じっとじっとじっっっっと・・・・

「寝ろって言ってんだろ!」
 いつまで経っても目を閉じる様子の無いイタチにナルトが叫んだ。
 とりあえず病人であることを考慮して手は出さない。
「あーもぅ、わかったから。・・・ここに居る」
「・・・・」
「オレは、ここに居るから」
 イタチの口元が僅かに緩んだ。

 だんだんと閉じられていく瞳。
 



 翌日には、昨夜のことが演技だったのではと疑ってしまうほどに元気になったイタチが居た。














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