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「どうした、ナルト?」 宿場町に向かう途中、突然足を止めたナルトに自来也が問いかける。 「・・・・いや、何でも無い」 どころでは無い。 里に張り巡らしているナルトの結界が震えた。一定以上のチャクラの発動を感知すると反応する その結界は、ナルトに何者かが里内で交戦中であることを知らせた。 誰か・・・この場合、一方はイタチだろう。 ナルトが里を出れば必然的についてくるだろうと思っていたのに、まだ里の中でごちゃごちゃして いるらしい。・・・イタチらしいといえば、イタチらしいが。優秀なくせにどこか抜けている。 「自来也、あんたカカシに何か言った?」 「ん、あー・・まぁ・・・ちょこっと、のぅ」 口を滑らせた訳だ。 ナルトは、ことさら大きな溜息をついてみせた。 人手不足のため連日任務に借り出されていたカカシが、丁度イタチが戻ったときに里に居たとは 運がいいのか悪いのか・・・。ナルトは、自分とイタチがかつて親密な間柄にあり、任務も一緒に組んでいたことなど誰にも口にしたことは無かったが、イタチの狙いがナルトにあると自来也に聞いた カカシならば、必ずイタチの足止めをしようとするだろう。 だが。 カカシの奴には無理だ。 ナルトは冷静に即断する。常に暗部の厳しい環境に身を浸していたころならばともかく、下忍の 教官となって暗部をしりぞき、勘を鈍らせたカカシではイタチの相手になどならない。結果は見えて いる。・・・・・見捨てるか、否か。 「ナルト」 「・・・・・」 まぁいい。 カカシも、悪運だけは強い男だ。 「お前、やはり四代目とよう似とるのぅ」 「は?」 いきなりの自来也の言葉に、ナルトの顔が不快げに歪んだ。 「お前も四代目も、表面的には酷く人なつっこそうに見えるがのぅ、その実。なかなか本心を露には せんところがそっくりだ!」 「・・・忍がそうやすやす本心見せてどうすんだよ。そういうなら、あんただって同類だ」 「儂ほど裏も表もない人間はそうはおらんぞ」 「よく言う。コレなんか裏ばっかじゃねぇか」 と、ナルトの手にいつの間にか現れたのは、カカシの愛読書『イチャイチャパラダイス』だった。 「!それはっ!」 「じっちゃんのとこ置いてあったやつ。いちいちこんな手のこんだ報告書を裏も表も無いとか言う 奴は作らないだろ。しかもカモフラージュか何だか知らないが、あちこちに複製品バラまいてやが るし。万一解読されたらどうするつもりなんだ?」 「あいや、趣味と実益を一致させたまで!だいたい、一般に出回っとるものはたとえ解読できたに しろ全く本物とは違う内容になっておる」 「・・・・・・ホント、馬鹿だろ。あんた・・・・」 いちいちそこまで手間をかける必要は無い。 「ふーむ、だがそれをお前が解読していたということは、イタチのこと。すでに知っておったんじゃな」 「今さらだな。オレに言わせれば、大蛇丸なんかよりイタチのほうがずっと危険だ。・・大蛇丸の奴は 他人の体に寄生することを選んだ時点で、終わっていた。いくら優秀な躯を選ぼうと、異なる精神と 肉体を完全に一致させるなんてことは、不可能だ」 「だが、その大蛇丸によって里は壊滅状態だかのぅ」 「いいんだよ。あれで。じっちゃんの寿命も近づいてたし、思い残すことなく逝けただろ・・・それに木の葉が弱味を晒すことで、尻尾を出す連中もたくさんいるしな」 あくまで冷静さを失わないナルトに、自来也はぺちりと額を押さえた。 「一石二鳥どころか、お前は五鳥ぐらい捕まえそうだ」 「さぁ、捕まえられるだけ捕まえてやるつもりだけど。・・・ちなみに次の街は別行動でいいのか?」 さすがにイタチもケリをつけて追いついてくるだろう。だが、ナルトの傍に自来也がつかず離れず 居たのでは、最悪「また今度」なんて話にもなりかねない。 「自分を餌にして釣り出すつもりか?」 「いつまでも後をついて来られるのは鬱陶しい・・・それともやっぱオレが抜けるんじゃ無いかって心配だってばよ?」 無邪気なドベの顔で首を傾げれば、自来也は呆れたように肩をすくめた。 「お前がそうするつもりだったなら、とっくに抜けておっただろう。今更じゃな」 「そう。・・・・今更、なんだよ」 今更ナルトが誰かの手を取るなど有りえないのだ。 僅かな気配を辿り、追いかけて。イタチと鬼鮫は二人が宿場街に入るのを見届けた。 「イタチさん、どう・・・」 どうしますか?と問いかけるように振り向いた鬼鮫は、そこに今まで見たことのない愛情に満ちて 慈しむように目を細めるイタチに言葉をなくした。誰を見て、そんな眼差しを注いでいるのか、問うま でもなくわかりきっている。生まれ育った里や、一時期とはいえ同僚であった者たち敵対したときさえ その表情を一片たりとも変えなかったイタチが・・・。 (・・・大きくなった、ナルト・・・) 「・・・・あなたにとって、いったい『うずまきナルト』とは何なのです?」 「全てだ」 迷うことなく言い切った。 「・・・それは、それは・・・ますます会うのが愉しみになりましたね」 「愉しむのはいいが、油断するな。・・・消されそうになっても手は貸さない」 「はぁ」 「あの子に嫌われたく無いから」 「は・・・・・・・・・・?」 先ほどから、イタチとは思えない言動の数々に鬼鮫の頭の中は疑問符で埋め尽くされている。 そんな鬼鮫を気遣うことなく、イタチは行動を開始した。 |