湯上り美人
緊急の報告を手に、火影の執務室の扉を叩いたサスケは、その向こうに六代目の姿を見つけることは 出来なかった。 時刻は深夜2時。普通ならば、すでに部屋に下がっている時刻だが、生憎とこの火影はサスケが いつ訪れても、執務室の椅子に座っている。 いったい、いつ眠っているのか不思議で仕方ないが、・・・補佐たるサスケの仕事は六代目の体調管理 では無い。そんなことは、あっさりと自分でやってのける火影なのだから。 だが、困った。 「おう、サスケ」 「・・・・シカマル」 参謀とも呼べる人物の登場に、サスケは僅かに安堵した。 腹立たしく思うが、六代目はサスケなどより確実に、この参謀を信頼している。 「・・・六代目は?」 「ああ、フロ」 即座に返事がかえる。 「・・・・・・・・・・は?」 「風呂。別に人払いしているわけでもねーし、緊急の用事なら奥の浴場に行けば」 「・・・・・・・。・・・・・・・・・わかった」 湯浴み中と聞き、一瞬怯んだサスケだったが、元来真面目な性格は手に持つ緊急の巻物を渡さなければ ならないという義務を優先させた。 去り行くサスケの背に、シカマルが気の毒そうな顔で『ご愁傷様』と囁いた声は届かなかった。 忍者屋敷らしく、複雑怪奇に折れ曲がった廊下を歩き、時には壁をまわし、掛軸をくぐり、辿りついたのは 火影の居室に近い場所に設けられている浴場である。 入り口には、これまた同僚が立っていた。 「・・・油女」 「中だ」 「・・・・・・・」 サスケの姿に驚くこともなく、すでに話が通っているかのように入り口から身を退く。 ―――― さすがに躊躇した。 「何だ」 「・・・いや、湯浴み中ならば外で・・・」 待つ、と言いかけたサスケに、中から声がした。 「入れ、サスケ」 「・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・失礼します」 何故来たのがサスケだとわかったか、なんて愚問だろう。 この里において、六代目の知らぬことなど何一つ無い・・・・・という評判なのだから。 溜息をのみこんだ、サスケは板の間の脱衣所を過ぎ、露天風呂へと続く扉をがらりと開けた。 白い湯煙に一瞬包まれ、目を瞬かせる。 すぐに晴れた煙の向こうに、湯船につかる白い背中が見えた。 「―――――・・・・・」 忍としてのキャリアを積み、己の感情を完璧にコントロールする自信のあるサスケだったが・・・その 背中に僅かに脈拍が早くなったのを認めずにはいられない。 「何をぼうっとしてる。緊急の報告が届いたんだろ」 「・・・・・・・はい」 近寄れ、と腕があがる。 その白い腕から・・・乳白色の湯が滴りおちる様が、妙に艶かしい。 集まる熱を散らしながら、サスケは肩越しに巻物を六代目へと手渡した。 六代目の手元で、ぱっと広がった巻物は白い帯を天に翻し・・・・燃え尽きた。 極秘文書は目を通した瞬間に廃棄される。 「サスケ」 「はい」 固い声に、サスケは膝を寄せる。 何を言われてもすぐ対応できるように体勢を整える。 ぐいっ。 「え・・・!?」 腕を引かれ、全く何の構えもしてなかったサスケは体勢を崩した湯に落ちた。 慌てて顔をあげると、そこにはにやりと人の悪い笑みを浮かべた六代目・・・。 ―――――・・っやられた!! いったいこれで幾度目になるのか・・・確か片手では足りない。 「くっくっく・・・水も滴るイイ男、か?」 「――――ナルトっ!!」 うなるようにサスケが六代目の名を呼び、睨みつけた。 「何?」 「何・・・じゃないだろっ!お前・・・この緊急の・・・」 「ああ、それ。別に大したことじゃない。我愛羅がまた宣戦布告してきただけだ」 「また・・また・・・・・・・宣戦布告・・?!?」 「心配しなくてもあいつ妙なところで律儀だからな、こちらが返事するまで大人しく待ってるさ」 ・・・それもどうなのだろう。 「ああ、そっか・・・お前、うちにしばらく居なかったから知らないんだな」 「は?」 「まぁ、いわゆる恒例行事の一つだ」 「恒例行事・・・・・・・・・」 呆然としたサスケは、湯船から立ち上る湯煙をただ見つめている。 「そういうわけで、少し遊ぼう・・・ってばよ」 伸ばされた白い手が頬に触れ、サスケは我にかえった。 「・・・・っ!!」 我にかえったサスケは、今まで意識していなかったことまで目に飛び込んでくる。 白湯からのぞいた華奢でまろやかな白い肩。 白皙の顔は、上気して朱がのぼり、あまりに鮮やか過ぎる。 そして何より。 目には映っていないが・・・湯の中にある体は―――――当然何も見に付けていない、はず。 「――――っ!!」 忍とはとても思えないほど動揺したサスケは、ナルトに背を向けて逃げようとする。 そうはさせじ、とナルトの腕がサスケの首にまわされる。 ばしゃりと湯を叩く音がして、羽交い絞めのような格好になった。 「・・・・ナル・・・っ」 冗談はやめろ、と叫ぶつもりが・・・・振り向きざまに耳たぶを、かぷりと齧られて。 ・・・・・・・ぱくぱく、と口を動かしながら・・・・・・・サスケは湯船に沈んでいった。 「あれ・・・おーーい・・・・・あーあ・・・」 言うだけで、ナルトは引っ張り上げようとしない。 面白そうに眺めているだけ。 「シノーーっ!」 声を掛けると、外に控えていたシノがすぐに姿を現す。 「土左衛門一体、引き上げよろしく」 湯船から出て行くナルトの体に白い浴衣を掛けると、土左衛門・・・ならぬ、サスケを引き上げにかかる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・哀れ、だな」 シノが合掌していた。 |
完璧におもちゃですな(笑)
役得なはずなのに全然幸せそうじゃないところが
こう、当サイトのサスケらしい(笑)