深窓の令嬢
六代目火影、『うずまきナルト』には様々な呼び名が与えられている。 例えば、『無双佳人』。 誰よりも強く、美しい人――― これはそういう意味でつけられた。 『一視滅殺』。 これは、六代目が一瞥しただけで敵が滅んだ、という噂が元になっている。 他にも数えあげればきりが無い。おそらく歴代でも最多を誇るだろう。二つ名どころの話では無い。 そして今また、新しい呼び名が与えられようとしていた。 「――― 『深窓の令嬢』?」 「ああ、そうだぜ」 里外任務から帰還したシカマルの報告を聞いていたナルトが胡散臭そうに眉をしかめた。 「一応聞くが、・・・・誰が?」 シカマルはナルトの問いに、目の前の人物を指差す。 つまり、ナルトだ。 「ふざけてんのか?」 「至って本気だと思うぜ。・・・・って、俺に怒ってんじゃねぇよ!・・・めんどくせー・・」 懐から獲物を取り出そうとしたナルトに、シカマルは慌てて距離を取る。 「誰が言ってんだ、そんな阿呆なことを」 「あー、今んとこ、霧隠れと岩隠れあたりで流行ってるみたいだな」 シカマルの口調からすると、その呼び名はこれからも広まって行きそうな気配らしい。 「理解不能だな。仮にも五大国の影の一人が『令嬢』なんて呼べるほど可愛らしいもんだと思ってんのか?」 「いや、単なる例えだろ」 「?」 「ほら、お前。火影になってから滅多に公に顔出さなくなったろう。この間の会議も代理立ててやがったし」 「面倒だったからな」 「・・・・・・・・・」 仮にも五影が揃う会議に、面倒も何も無いと思う参謀のシカマルは、顔をしかめる。 それに、ナルトはふんと鼻で笑った。 「いくら五影が揃うって言っても議題は、互いの力関係の確認だ。実りも進歩も無い会議に出席するほど 俺は暇じゃない。代理で十分だ」 ちなみにこの時の、代理は火影補佐のサスケだった。 「それが原因なんだっつーの」 「顔を出さないことが?・・・・たったそれだけで『深窓の令嬢』扱いか?他の里の影だって同じようなもんだろ。 それとも顔印刷してビラでも配れって?」 「お前・・・とことん、自覚がねぇのな・・・・めんどくせ〜・・・」 黙っていれば・・・いや、口を開いてもナルトは見惚れるほどに美しい。 美人、美男は世に数多居るが、ナルトの『美』とは比べるべくも無い。 ナルトの美しさは造作だけでは無い。この世に生まれてより、厳しい環境の中で磨かれ、育まれた 魂の強靭な美しさなのだ。 それが表面に滲み出、チャクラなど判別のつかない素人にさえ、何かを強く感じさせるほど。 まして忍に対しては、射られるほどに眩い。 一度目にすれば、脳裏に焼きついて決して消えることは無い。 「自覚?―― 十分自覚してるぜ。この容姿も武器の一つだからな」 「そりゃあな」 ある程度はわかっているが、実際に他人に与える影響はナルトの想像を上回る。 きっとこの存在に、人生を狂わされたのは一人や二人では無い。 ―――― シカマルだってその一人だ。 「出し惜しみすんな、て言いたいんじゃないのか・・・」 「出し惜しみぃ?」 ナルト自身にでは無い。 ナルトを六代目火影として戴いている木の葉の隠れ里に。 独り占めするな――――― と言いたいのだろう。 「ホント・・・罪作りだよな」 うちの火影サマはよ・・・・。 「あ?」 「何でもね〜・・・めんどくせぇ・・・放っておけばいーんじゃねぇの?」 「お前がそう言うなら、それでいいんだろ」 「・・・・・・。・・・・・・」 何気ない信頼の言葉。 シカマルは、心の中で『この至上最凶の人誑しめっ!』と叫んだ。 |