-レイ−






<後編>









「みそラーメンと醤油ラーメンを」
「お前の奢りな」
「もちろん、デートだもんね♪」
 というには色気など微塵も無いが。


「ねぇ、ナルト。ナルトが初めて俺の奢りでラーメン食べてくれた時のこと覚えてる?」
「さぁ」
 ナルトは関心なく、店主の手元で麺が茹で上がっていくのを見つめている。
「初めての下忍任務の帰りだったでしょ?あのとき凄く喜んでくれて、嬉しかったんだよ〜。こういうのが教師になる醍醐味かな〜とか思ったりして」
「ふーん」
 相槌はあくまでそっけ無い。
 だが、これもいつもなら相槌どころか話さえ聞いてもらえないのだから。
「サスケもサクラも子供にしちゃ妙にさばさばしちゃってたし、『せんせー』とか純粋に喜んでくれるたのはナルトだけだったな〜」
「お前に他人がとやかく言えるのか?自分だって十分に『可愛げの無い』子供だったろうが」
「そうなんだよね〜、先生もさぞかし扱いにくかっただろうなと思うよ」
「・・・そうでもないだろ」
 カカシの言う『先生』はすなわち、ナルトの父親だ。
 間違ってもあの父親が子供に振り回されるわけが無い。
 そう見えたとしたら、そう見えるように『振舞っていた』のだ。
「へい、お待ち」
 店主の声に、話が一旦途切れ、お互いに箸を割ってラーメンをすすった。
 麺は時間が命だ。


「ごちそうさま。美味しかった」
「毎度ありがとうございます」
 馴染み客の六代目に、店主はにこやかに笑顔をかえす。
 ナルトがただの『ナルト』であった頃から、ここの店主は変わらない。
 カカシが支払いを済ませるのを待って、再び並んで歩き始めた。
 二人の足は訓練場へと向いていた。


「ああ、懐かしいな・・ここでナルトたちの力試ししたのがもう随分昔の話に思える。あのときのナルトは影分身だった?」
「当然」
「・・こっちが試されてたわけだ」
「何を今更」
 くつりと笑う。
「昔から、ナルトってば完璧だったよね〜」
「お前は昔から馬鹿だったな」
 冷笑さえ浮かべてナルトは言ってやる。
「ひど・・っ」
「チームワークが大切だなんてほざき出した時には本当に、見捨ててやりたくなったな」
「駄目?」
「そういう問題では無いことはお前もわかっているだろう?忍の生き様は・・・劣る者から堕ちていく。それを
助けようとするのは、傲慢だ。馬鹿だと言ってもいい。堕ちていく者を助けようと自分まで道連れになれば、成すべきことも成せぬまま、無駄死にだ」
「・・・・ナルト、お前って、言ってることとやってることが矛盾だらけだよ?」
 弱者は見捨てるべし、と平気で言葉にしながら、中忍時代隊長として活躍していたナルトはただの一人も犠牲者を出すことは無かった。彼が指揮をとった隊は、全員が『例外無く』無事に帰還している。
 『うずまきナルト』は決して誰も見捨てない。
 神さえ見捨てる、自分たちを。彼は救い出す。
 中忍、下忍連中のナルトを見る目ときたら、崇拝を通りこして狂信の域にまで達さんばかりで・・・。

「矛盾など無い。それが必要だったからしたまで・・・結果はこうしてお前の目の前にある」
 長老連の反対を押し切って、前線の忍たちによる絶対多数による推薦。
「ナルト・・・・お前は何を望んでるんだ?」
 カカシには、感じることがあった。
 ナルトが、ただ『火影』になるためだけに、そんな労力をかけたのでは無い、と。
「何も」
 何も、無い。
 それとも・・・・何もかも?
「冥土の土産に教える気は     
 ふ、とナルトが口元を吊り上げた。
「生きて帰るつもりの奴に?」
「っそれはそうだけどね!ほら、やっぱり万が一ってこともありうるでしょ?」
「そうだな・・・お前が死んだら       火影岩にでも顔を刻んでやるか?」
「うわ。それだけは勘弁して・・・」
 恥ずかしーからとカカシは顔を覆う。
「なら、生きて帰るんだな」
 カカシは顔を輝かせる。
「ね、ね!やっぱ俺のこと好き!?」
「お前の頭は一度、暗部の研究室にまわしたほうがいいのかもしれない・・・」
 本気で検討を始めそうなナルトに、カカシは慌てる。
「少々頭割ったくらいで死なないだろ?」
「俺って・・・ゴキブリ・・・」
「いや、お前とゴキブリを比べるなんて、ゴキブリが憐れすぎる」
「・・・・うぅ、ナルト〜、いいよ、それもきっと愛情の裏返しだね!素直そうで素直じゃないところが、先生に嫌になるくらいそっくりだね!」
           殺されたいか?今、ここで」
「ゴメンナサイ」
 ナルトの気分を逆撫でることに関しては天才的なカカシは、引き際もわきまえている。
 傍で聞いていれば二人の会話はまるで漫才のように思えたが、ナルトはボケでもドツキ合いをするためにでもここに来たわけでは無い。
 ナルトはポケットから、チャリン・・と音をさせて鈴を取り出した。
「あれ、それは・・・」
「そう、お前から取った鈴だ」
 ナルトはその鈴をカカシに投げた。
「え」
「やる」
「・・・・・・・・」
 カカシは呆然と鈴を見つめた。それは未だ、カカシがナルトの正体を知らなかった頃、この訓練場で掠め取られたもの。これを今更自分に返すことにいったいどんな意味があるというのか。いや、今までナルトがこの鈴を持っていたということさえ驚愕の事実だ。
「間抜けた顔」
「・・っナルト〜」
「お前の人生の最大の誤りは俺と会ったことだな。俺の担当などせず上忍として任務を遂行するためだけに
生きていれば・・・無用な苦悩などせず生きられたのにな」
「・・・・・何のことかな〜」
「後悔しただろ?お前は不真面目な癖して、どうしてか余計なところまで責任を感じるからな。・・・まぁ、それも俺の親のせいなんだろうが」
 会わなければ会わなかったで、サスケよりも更にひねくれた救いようの無い人間に育っていたかもしれないが、ナルトにそれをとやかく言う資格は無い。

「ナルト、それでも俺は何度でも同じことを繰り返すよ。ナルトに出会えなかった自分なんて考えられない」
 ちりん、と鈴を鳴らしてカカシはそれを懐に入れた。
「後悔したのは、自分の馬鹿さ加減に。ナルトと出会えたことの全てに後悔したことなんて無いよ」
 いつものふざけた雰囲気が消え、柔らかい気配が包む。
「お守りありがとう♪」
「・・・おめでたい奴」












 その後二人は、手入れに出していたクナイと月清を受け取りに武器屋に出向き、カカシの部屋へと戻った。
「今日は一日付き合ってくれてありがとうv」
「正当な報酬を与えただけだ。・・・これだけで気が済んだのか?」
 抱かしてくれ、と願うならそれさえナルトは叶えるだろう。
「これ以上は『報酬』で願っていいことじゃないからね〜残念だけど」
「俺は別に構わないが?」
「俺が構うのっ!!絶対・・っ俺以外に報酬でナルト自身をあげちゃ駄目だからね!!」
 必死で言い募るカカシの様子に、ナルトは馬鹿め・・と笑った。

「それなら、これは俺からの餞別だ」
 え・・・。

 ぐいっと胸元を掴まれて、引き寄せられたカカシの口に・・・冷たく柔らかいものが触れた。

「・・・健闘を祈る、カカシ上忍」


 呆けたカカシが我に返ったときには、すでにナルトの姿は影も形も無かった。






















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