「あの、僕の子知りませんか?」 |
暗部の仕事の帰り道、ナルトは唐突に声を掛けられた。 ちなみに今のナルトの格好といえば、全身真っ黒な上、青年姿に変化しており目立つ金髪は すっぽりと隠している。 しかもナルトは普通の人間の目では追えないほどのスピードで木から木へと移動している最中で もちろん気配も完全に殺している。 だが、相手は飛語や忍言葉でなく、普通のナルトに話しかけている。 どう考えても『普通』じゃない。 問答無用でナルトに殺されたって文句を言えやしないだろうに、相手は無視するナルトにくじける ことなく話しかけてくる。 「お急ぎのところ、本当に悪いと思うんだけど・・・僕の子知りませんか?」 「・・・・・・」 どう答えろというのだ、この状態で。 再びナルトは沈黙する。その間も景色は凄まじい速さで後ろへ流れていっているのだが・・・。 「あ、そうか。外見を伝えてないのに知るも何も無いよね・・・えーと僕の子はね」 いきなり相手は語りモードに突入した。 「えーと・・・そう、”可愛い”!もう可愛くて可愛くてしょうがいないって感じで僕と奥さんに似て絶対に 美人だと思うんだ」 (・・・親ばか?) 「生まれたときに一度しか会えなかったから、髪の色とか多少変わっているかもしれないけど、それでも きっとあの子の可愛らしさは変わらないと思うんだよねぇ」 ナルトはついに立ち止まった。・・・・立ち止まらずおえなかった。 暗部の中でも更に極秘の存在であるナルトは、姿を見られれば記憶を消すか息の根を止めるか迷う ことなく実行してきた。しかし、それも片手に余る。 それほどナルトは周囲に気を配ってきたつもりだ。 だから、今回も普通ならナルトは相手を即座にコロスかどうかしていたはずだ、すぐに。 だが、それは相手が”普通”の”一般的な””常識的”に考えてただの『人間』であったならば、だ。 相手は透けていた。半透明だった。・・・・足はついていたが。 目の前の相手は人間じゃない。・・・生前は人間だっただろうが。 つまり、世間で言うところの『幽霊』というやつに違いない。未だかつてそんなものにはお目にかかっ たことのないナルトに確信は持てなかったが、だからといって相手に『あなた幽霊ですか?』とは 聞きたくない。絶対に。 「・・・とまぁ、そういうわけで久しぶりに我が子に会えると楽しみにしてたんだけど、この姿のせいか 声を掛けても皆、全然気づいてくれなくてね〜、いや寂しかったなぁ」 何が、『そういうわけ』なのかはよくわからない。幽霊の事情というやつだろう。 ナルトは深く考えたくない。 「いや、ホント。君に会えてよかった♪それで僕の子に心当たりないかなぁ?」 「・・・無い」 ナルトの言葉に見るから幽霊はがっくりと肩を落とした。 だいたい心当たりも何も先ほどから幽霊は我が子の特徴に『可愛い』『美人』としかあげていない。 形容詞だけでどう相手に心当たりをつけろというのか、無理言うな。 内心で幽霊を罵るナルトの目の前で、幽霊は火の玉を二つゆらりゆらりと浮かべつつどんよりと 暗い雰囲気をかもしだしている。 ・・・幽霊になると火の玉がオプションでもらえるのかもしれない。 このままその場を立ち去ってしまいたい気分一杯のナルトだったが、この幽霊。そうそう素直に ナルトを離してくれそうにない。・・下手に逃げてついてこられるほうが迷惑だ。 「・・・名前、とかわからないのか?」 幽霊はナルトに尋ねられて、顔をばっとあげて明るく輝かせた。 「ナルト、です。ナルト君!」 「・・・・・・は?」 「僕の子の名前は”ナルト”と言います」 「・・・・・・・・。・・・・・・・」 ナルトの脳がフル回転する。 世界は広い。自分以外にも”ナルト”という名を持った人間は探せば2,3人は必ず居るはずだ。 名前が一致するからといって必ずしも自分だというわけではない。 それに! こんなわけの判らない幽霊が自分の親だなんて冗談でも嫌だ。ぜっっっったいに嫌だ。 ここは何としても否定して・・・いや、待て。 もっといい方法があるじゃないか。 「あー、そういえば水の国あたりでそんな名前を聞いたかも・・」 全く嘘というわけではない。事実ナルトは最近任務でそこに居た。 「本当っ!?ありがとっ!!」 幽霊はあっさり信じた。そしてぱっと姿を消す。 「・・・・。・・・・・」 その瞬間、ナルトは決意した。 翌朝、火影のもとにナルトからの書簡が届いていた。 一通は昨夜の任務の報告書。もう一通は・・・ 『家出します。探さないで下さい。一ヵ月ほどしたら帰ってきます ナルト 』 「・・・何じゃとーーーっ!!!」 火影の叫びが里に響いた。 ナルトはほとぼりが冷めるまで姿をくらますことに決めたらしい。 |