− Boy's Insect − 






 その蝶は、金と瑠璃色の美しい羽を持っていた。















 春。
 色々な虫たちが空にはばたきはじめる頃。
 その蝶も芳しい花の中をひらひらと飛んでいた。

 金と瑠璃色の羽はどの蝶よりも目立ち、美しかった。
 けれど。
 その蝶はいつも一人だった。
 その美しさと異色さに、他の蝶にはいつも遠巻きにされ、妬まれていたのだ。
 

 その蝶の名は・・・・・『ナルト』と言った。




















「ねぇねぇ!見た!?」
「見た見た!もうっすごくカッコいいの!!」
 いつものように、ナルトがお目当ての花の蜜を食べようと空を飛んでいたら・・・蝶たちの
 声が聞こえてきた。
 普段なら気にせず通りすぎてしまうのに、その蝶たちの中にナルトの気になる子が居たのだ。
 いったい何を話してるんだろう、と近くの葉の影に隠れて蝶たちの話をうかがう。

「森はずれのあの子でしょ!」
「そうそう!名前は知らないけど・・・」
「いいわよね〜v」
「・・・でも、あの子て蜘蛛でしょ?」
「そうなのよねぇ・・蜘蛛なのよねぇ・・」
「「「あたしたちの天敵だもんねぇ・・・」」」
 蝶たちはふぅ〜と吐息をつく。
「でもさ!たとえ蜘蛛でもあんなにカッコ良かったら・・・」
「食べられた〜いっ!」
 蝶たちはきゃいきゃいと騒ぎながら飛んでいく。
 それをナルトは眺めながら首を傾げた。

「・・・・・・・蜘蛛、て何だってば?」
 他人と関わることのないナルトは蜘蛛が何なのか知らなかったのだ。
「よしっ!見に行ってやるってば!」
 そして、自分のほうがカッコいい、ていうことがわかったらあの子に振り向いてもらえるかも
 しれない。
「・・・頑張るってば!」
 ナルトは金と瑠璃色の羽を大きくはばたかせた。













「あ・・・・れ・・・・?」
 ナルトは右を見て、左を見て・・・・・・・頭を抱えた。

「ここ・・・・どこだってばーーーっ!!」

 見事に迷っていた。

 今までナルトはこんな森はずれまで来たことは無かったのだ。
 ナルトの好きな花はいつも陽のあたるところにあったし、こんな薄暗いところはじめじめして
 嫌だったから。
「う〜〜・・・どうしよう・・・」
 今までに無い距離を飛び、空腹でふらふらになりながら・・・ナルトは森の奥へと入っていく。
 そして・・・・


「あ・・・れ・・・・・?」
 再びナルトは途方に暮れた。
「う〜〜〜っ!」
 羽を動かしてみる・・・・・動かない。
 手を動かしてみる・・・・・動かない。
 
「な・・・・何だってば!!」
 ナルトは混乱して、暴れまくる。
 だが、何故か手も足も羽も・・・動けば動くほどに何かがからみついてきて動かない。
「うわ〜っ!取れないってば!これ何!何だってば!」
 叫び声をあげるが、こんな森の中で誰も助けに来る者などいない。
 いや・・・森の中でなくても、叫んでいるのがナルトだと知れば誰も助けてなどくれないだろう。

「・・・・・どうしよう・・・・」
 暴れるのをやめたナルトの目から・・・・・涙が一粒こぼれ落ちた。
「このまんま・・・俺、死んじゃうのかな・・・」
 動けずに、風雨にさらされ・・・朽ち果てていく・・・。
 想像するだけで恐ろしい。



「おい」


「・・・そんなの嫌だってば・・・」


「・・・おい」


「嫌ーーっ!」

「おいっ!!」


「ふぇ?」
 すぐ近くで声がして、振り向いたナルトは再び驚いた。
「・・・っ!?」
 そこに居たのは、今までナルトが見たことのない生き物で全身真っ黒だった。
 黒なんてそれまで汚い色だと思っていたナルトだが・・・

 ・・・何か綺麗だってば・・・・

「おい、ぼうっとするな。ウスラトンカチ」
「誰が!俺はナルトだってば!」
 こいつ、綺麗だけど最悪!
 むかっとしたナルトはぷいっとそっぽを向いた。

「お前・・・今の状態がわかってんのか?」
「・・・状態?」
 ナルトは相手が何のことを言っているのかわからない。
「・・・・・・・・。・・・やはり、ウスラトンカチだな」
「ウスラトンカチって言うなーーーっ!!」
 ナルトは怒って相手に飛びかかろうとするが・・・動けない。
 ・・・・忘れていた。

「・・・・動かないってば!」
「そうだろうな」
「何かからみついて取れないんだってば!」
「そうだな」
「このまんまじゃ、死ぬ!」
「まぁ、そうだろうな」

「・・・・・・・お前、ムカツクーーーっ!!!!!」

 わめいてもどうすることも出来ない。
 ナルトのどこにも持っていきようのない怒りは・・・・・。

「・・・っく・・・どう・・っせっ・・・俺ってば・・・ひくっ・・嫌わ・・れ者だって・・・ばっ!」
 何も出来ない無力な自分が許せず、ナルトは涙を溢しはじめる。
「ここ・・で、死んでも・・っく・・・・誰も・・悲しまない・・・てば・・ひくっ」


 ふと、頬に暖かいものを感じた。

「・・・?」
「泣くな」
 困った顔の少年がナルトの頬に流れる涙を指で拭っていた。
「俺が悪かった。だから泣くな」
 ナルトの瑠璃色の目が丸くなる。

「これは蜘蛛の糸だ。暴れれば暴れるほど取れなくなる」
 少年は説明しながら、ナルトの体に巻きついた糸をとっていく。
「・・・・・あっ!お前ってもしかして・・・・・・蜘蛛?」
「・・・・・。・・・・・・今ごろ気づいたのか」
「むっ!だって知らねーんだもんっ!そっか、お前が蜘蛛なのかぁ・・・」
「蜘蛛蜘蛛言うな。俺にだって名前がある」
「何だってば?」
「何でお前に・・・・・・・・・サスケ、だ」
 疲れたように肩を落とした少年は、呟くように名乗った。
「サスケ・・・・・・いい名前だってば!もちろん、ナルトの次にな!」
「ああ、そうかよ。・・よし、取れたぞ」
 ナルトの美しい羽がふわりと浮いた。
「動く!」
 嬉しくなったナルトは飛び上がり、宙返りを披露する。
 ナルトの羽が翻る度に、金と瑠璃色のきらめきが空を舞った。
「サスケ!サスケ!」
「何だ・・・」
「ありがとう!お前のおかげだってば!」
 輝くような笑顔でナルトはサスケに抱きついた。
「・・・・っ!?」
 そのまま勢いあまって倒れこむ。


「サスケっていい奴!」
「・・・・・。・・・・・」
 サスケの顔がとまどいに歪む。
「なに?」
「・・・別に」
「サスケって・・・・変な顔」
「お前は間抜け顔だな」
「っ!!やっぱお前むかつくっ!!」
 いったいどっちなんだ。
 
「ふん、まぁどうでもいいが・・・もうこのあたりに来るなよ」
「・・なんで」
「お前みたいなドベは今日みたいに蜘蛛の糸に捕まって野垂れ死ぬのが落ちだからな」
「ドベってなんだよっ!」
「ドベはドベだ、このドベ」
「っっっっ!!」
 かんかんに怒ったナルトはばっと空へ羽ばたいた。




「サスケの馬鹿ヤロウーーっ!!」


 上空からそんな叫び声が聞こえてくる。










 蝶々少年、ナルトの受難は始まったばかりである。









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あまり好きでもないのに・・・虫。
・・・蝶のナルトが書きたかったんです・・


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