大岡越前
天高く、秋の空は晴れ晴れとしている。
ぴーひょろろ~と鳶が呼んで、上忍の誰かが呼ばれているらしい。
運がいいのか、悪いのかそれはナルトでは無かった。
今日ならどんなチンケな任務でも喜んで引き受けただろうに。
ナルトはしみじみと思いながらため息をつき、目じりをぴくぴくと震わせた。
窓から身を乗り出した格好でナルトはいい加減うんざりしていた、この状況に。
「ナールト!今日お休みだよね~」
ひょっこり顔を出したのは最近すっかり馴染みとなってしまった(全然嬉しくないけど)写輪眼のカカシ
・・・・・思い出したくないが、ナルトの担当上忍である。
「よぉ、ナルト」
その背後からのそりと姿を現したのは熊・・・じゃなくて、こちらも下忍を担当している上忍アスマ。
「どこか遊びに行こうよ!あ、修行に付き合ってもいいよ~」
「は、てめぇが修行させられるほうじゃねぇのか」
「何だと、熊。お前こそなんでここに居るんだよ。邪魔だよ、邪魔」
(お前らどっちも邪魔だよ)
二人の目の前で扉を閉じたはずなのに、無断侵入してきやがった馬鹿者たち。
思いっきり吹っ飛ばしてげしげしと足蹴にしてやりたいが、ここは自分の家。
そんなことをすれば明日から宿無し決定だ。
「ね~ナルト。俺と出かけよ?熊なんか放っておいてさ」
「ナルト、いい巻物が手に入ったんだ。見てみねぇか?」
たまの休み。本当に完全なオフ。下忍の任務も暗部の任務も何もないという・・・1年ぶりには
なろうかというこの安息の日を何故こうも邪魔されなければならないのか。
ナルトは静かに。
しかし、ふつふつと胸の奥で怒りを滾らせる。
「ナルトは俺と行くの!」
「馬鹿言え、俺だ」
(誰かこいつら何とかしろよ・・・。)
本人の意見を全く無視して、醜い言い争い・・もしくは不毛な言い合いををしているカカシとアスマを
眺めるナルトの視線が1秒ごとに、1度温度が低下していく。
もはや摂氏マイナス600度あたりまで来ただろうか?
そんな人どころか全ての存在を瞬間冷凍させかねない視線にひるむことなく・・いや、自分のことで
精一杯で気づいていないのかもしれないが、カカシとアスマはとんでも無い暴挙に及んだ。
ガシッ!!
ガシッ!!
いきなり両脇から腕を捕まれたナルトは息を呑んだ。
「・・何、ナルトに触ってんの?離せよ・・・殺しちゃうよ?」
「てめぇこそ、勝手に触ってんじゃねぇよ」
ナルトの頭の上でカカシとアスマの殺気がぶつかりあう。
二人とも一歩も引く気は無いらしい。
ぎゅっとナルトを掴んでいた両方の手に力が篭った。
「ナルトは俺と行くのっ!」
「いや、俺だ!」
言うや、両方から凄まじい力で引っ張られる。
これがただの「ドベ」のナルトだったら間違いなく腕が抜けていた。
そうで無くともいきなりの行動過ぎて・・・
(・・・筋・・痛めたな・・・)
ナルトの怒りのメーターはとんでもなく振り切れて、あまりの負荷に爆発間近。
そんなナルトに自分たちのことで精一杯な二人は気づかない。
・・・気づいていれば、即座に土下座して許しを請うたことだろう。
「・・・あのさ、腕・・痛いんだけど・・・」
「俺のっ!ナルトは俺のっ!」
「ふざけるな!いつお前のものになった、いつっ!」
(聞いちゃいねー・・・)
「離せ、アスマー・・・」
「てめぇこそ、カカシ・・」
「火遁・・・」
「離せっていっ・・・・え?」
「てめぇこ・・・・あ?」
二人は今さらながらにナルトへ目をやる。
「業火球の術っ!!」
サスケのものとは音が同じでも呪が違う。
その名の通り業火・・・『地獄の炎』が二人に容赦なく放たれた。
「っよいっしょと。これってやっぱり燃えるゴミの日に出せばいいのか?まぁ・・どちらかというと
生ゴミに分類されるもんだと思うけど」
大きな二つの物体を共同のゴミ捨て場へ窓から放り投げると、ナルトはパンパンと手の埃をはたく。
「はぁ、これで静かになったな」
漸く訪れた平穏にナルトは至極満足だった。
「喧嘩両成敗ってな」
その原因が自分にあることは棚上げして、ナルトは大きく頷いたのだった。