見守りしアイ
”愛しくてたまらない”
かつて向けられたその眼差し
自身の何が相手にそこまでの念を抱かせるのか
俺には全く理解できなかった
「わざわざ任務にかこつけて呼び出すとは、何の用だ?」
波の国一番の妓楼に暗部としての任務を命じられてやってきたナルトを待っていたのは三忍と呼ばれる
うちの一人、自来也だった。
こうしてまともに顔を向かい合わせるのは、ツナデ捜索以来4年ぶりのこととなる。
ツナデを火影に据えた後、自来也は大蛇丸を追うという名目で面倒なことを押し付けられる前にと里を
さっさと出て行った。
「なーに、こうでもせんと不肖の弟子に会えんからのう」
「俺はあんたの弟子になった覚えは無い、よって会う必要もないと思うが」
「相変わらず憎ったらしい口をきく奴め」
不機嫌な顔を隠さないナルトに対して、自来也は上機嫌で盃を傾けていた。
「こってに来て酌でもしろ」
「丁重に断る」
「それのどこが丁重だっつーの!酌をしてくれたらこれやるぞ?」
固く封印を施された巻物にナルトの興味が僅かに動いた。
ナルト自身に自覚はそうないが、実はかなりの忍術”オタク”である。
「・・・・・・・・・」
ナルトはため息を飲み込むと自来也の隣に移り、銚子を傾けた。
盃に入った透明な液体を自来也は”おっと”と言いつつくいっと喉へと放り込み、次の盃を強請る。
「しかしあまり栄養が足りていないように見えたが、よく大きくなったな」
「余計な世話だ。必要な分の栄養は摂取している・・後は腹の中の奴が補ったんだろうよ」
「ふむふむ、初めて見たときにはひょろっこいわりにしっかりした体つきじゃったからたいして心配はして
おらんかったが、これもまた師の愛だっつーの!」
「は、人の体見て”セクシー”だの、触りまくるわ、殴るわ、ただのエロジジィか変態の間違いだろ」
「それも愛!何の興味もない奴に構ったりするか!」
「開き直ってんじゃねぇよ、エロジジィ!」
「そんな顔をするな、美人が台無しだ!」
「・・・・・・・」
不毛な言い合いと化してきた会話にナルトは銚子を置いた。
「で、本当のところ何の用だ?いくらあんたでも、ただ会いたいだけで、こんなところまで暗部を動かしたりしないだろう」
「いや、実際のところ木の葉でも儂は構わんかったんだがのぅ。ツナデの奴がどうしてもと言うから儂も仕方
なくこーして波の国くんだりまで足を伸ばしたわけよ」
「・・・・・・俺、帰ってもいいか?」
「まぁ、待て!せっかくここまで来たんじゃ、お前も楽しんで帰れ」
「生憎俺は、そんな暇人じゃない」
「むぅ、融通のきかん奴め!素直に言えば、許可してやらんでもない」
「あんたの許可なんて必要ない」
「儂は依頼主だっつーの!経歴に傷をつけたいのか?」
「・・・・・・。何を、言えって?」
「全く、お前という奴は正反対に見えて自分のことは何も言わぬというところは実によく似ておる」
苦笑まじりの自来也の言葉にナルトの眉がぴくりと動いた。
「ナルト、お前・・儂のことが苦手だろう」
「気に喰わないだけだ」
「四代目はな、一見人当たりが良さそうで儂とも調子に乗って騒いだりもしたが、本当に儂に心を開いたのは
随分後のことだった。あいつは儂が教えた忍の中でも抜きん出た才能を持っておった・・・生きておれば当代
随一の忍として名を馳せたことだろう。儂もあいつが最後の弟子になるだろうと思っておったが・・・人生
わからぬものだ。儂より先にあいつは逝き、儂はその子供を弟子とした・・・儂は、ナルト」
自来也はどこか懐かしむように笑い、盃に口をつけ、真面目な顔をナルトに向けた。
「儂は、結婚しておらん。ゆえに子供もおらん。儂にとって死んだ四代目・・・そして、お前が子供のような
ものだ。儂はお前が・・・可愛い」
「気色の悪いこと言うな。それは俺ではなく”ドベ”のナルトだろ」
「儂にとっては同じことよ、ドベであろうとなかろうと。儂には愛しい」
「年寄りの昔話は長くて困る」
立ち上がったナルトに自来也がくつくつと笑いを漏らし、ほれっと巻物を投げて寄越した。
それを危うげなく受け取ったナルトは、胡乱げな眼差しをそそぐ。
「そう心配せんでも、それは普通の・・と言っては語弊があるが、まぁ役には立つ巻物だ。贈り物だ」
「・・・贈り物?」
自来也がにやりと笑った。
「誕生日、おめでとう」