泊めてくれませんか?
「あの、泊めてくれませんか?」
暗部の仕事を明け方に終え、下忍任務までの僅かな時間を睡眠に費やそうとベッドに横になったナルトの
目の前に、『それ』は浮いていた。
「・・・失せろ」
ナルトの声はどこまでも低く、容赦ない。
まぁそれも仕方の無いことと言えるだろう、二度と見たくもない顔が現れれば。
「そんなこと言わないで、うぅ、僕は君に言われて水の国に行ってみたんだけど、ナルト君見つからなくて
他に頼るところが無いんだよ・・・ね?」
「・・・・・・」
何が、『ね?』だ。
ナルトは、殺してやりたいと思った目の前の相手を・・・けれど、それは不可能なのだ。
何しろ、相手はすでに死んでいる。いわゆる『幽霊』という存在だったりする。
ほとぼりを冷ますまで家出をしていたのは、コレに会いたくなかったがためなのに、これでは意味がない。
全くもって、綺麗さっぱり意味がない。
しかも、何故こんなところに出てくる、貴様・・・俺に何か恨みでもあるのか、馬鹿野郎。
ナルトの思考はどんどんやさぐれていく。
「・・・消えろ」
「酷いっ!僕がこんなにも頼んでいるのにっっ」
どこから取り出したのか半透明のハンカチを口にくわえている。
「・・・・・・」
頼む、嘘だと言ってくれ・・・これが、もしかして『自分の親』なのかもしれないと思うとナルトは気を
失い、自分が昇天してしまいそうだった。
「俺は、寝る」
「うんvどうぞどうぞ、僕も勝手にそのあたりに転がってるから」
「・・・・・・・」
それなら他の場所でもいいだろうがっ・・・という反論は、もうどうでもよくなったナルト。
無視して目を閉じた。
「はいvお味噌汁♪」
「・・・・・・・」
ナルトは差し出された汁椀を無言で受け取りつつ、これからの予定に頭を悩ませていた。
ただ一つ確実なのは今日の下忍任務は休まなければならないということ。
「しかし、何であんた実態が無いのに・・・朝食作れるんだ?」
「んー、根性?」
「・・・。・・・」
根性でどうにかなるものなら、きっとこの世は幽霊で満ち溢れていることだろう。
「一宿一飯の恩を仇で返すわけにはいかないからね!」
一宿はともかく、メシは与えていないはず。だいたい恩を仇で返したくないというのなら、とっととナルトの
目の前から消えてもらいたいものだ。
ずず、と汁をすすりつつ、ナルトはどうやってこの幽霊を追い払おうかと思案する。
「ところで」
「・・・・・・・」
「君の名前、何ていうんだい?」
「・・・・・・・」
「僕はね・・・ミ~ちゃん、て呼んでくれるといいよvv」
アホすぎる呼称に、突っ込む気力さえ、ナルトにはすでに無い。
「・・・タオ=ルン」
「んーじゃ、タ~ちゃん、て」
「呼ぶな。絶対に。普通に呼べ」
「えー、そんなの親しみがわかないでしょう?」
「沸かなくてもいい。そんな風に呼ばれるくらいなら、改名する」
「仕方ないなぁ、じゃ、タオ君。・・・これならいいでしょ?」
「・・・・・・。・・・・・・」
何でこれが火影に選ばれたのか、深く深く疑問に思うナルトだった。
「それで、いつになったらあんたは消えるんだ?」
「あんたじゃなくて、ミ~ちゃん。そうだねぇ、ナルト君に会えたらまた成仏できるかもv・・・絶対に木の葉の
どこかに居るはずなのに会えないんだよ、酷いと思わない?」
「・・・・・・・」
全然、全く。これっぽっちも。
「三代目に聞こうにも、僕の姿は見えないみたいだし・・・本当、困ってるんだよ」
「・・・まさか、見つかるまで俺のところにいる気だと抜かすつもりか?」
「うん、よろしくv」
「ふざけるな。・・・だいたい、捜しても見つからないならその”ナルト”て奴はもう居ないんじゃないのか」
「へ?どういうこと?」
「・・・あんたと一緒。この世に居ない」
ナルトの言葉に、どこかでみしっと軋む音がした。
「・やだなーっ!ナルト君に限ってそんなことあるわけないでしょ!」
「絶対に?どこでそんな確信が抱ける?ここは忍の里だ」
「・・・わかるよ、僕には」
「・・・・・・・」
「だって感じるから、ナルト君を。絶対にどこかで元気で生きていてくれてるってわかる」
確かに元気で生きている・・・すぐ目の前に。
しかし、厄介なことになった。もしナルトに会うまで本気で成仏しないつもりなら、ナルトはずっと下忍任務を
休まなければならなくなる・・・さすがにマズイ。
だが、目の前の相手に正体をバラすのも、果てしなく嫌だった。
とりあえずは、火影に報告して対策を練ろう。
腹をくくったナルトは、幽霊を叩き出すと、火影の屋敷を目指した。