安らかに ただ想う


「うずまきナルト、中忍第一部隊、い・ろ・はの三組を率いて砂の国へ潜入し、木の葉の国から盗まれた 霧の国との密書を取り返すことを命じる。関係者の生死の有無は問わない」
「御意」
 火影の前に立ったナルトは軽く頭を下げ、姿を消した。











 夜の闇に紛れて、忍たちがナルトの前に集ってくる。
 中忍の部隊は第一から第二十まであり、それぞれの部隊は5人7組の35人で編成されている。
 今回ナルトが率いることになるのは第一部隊の3組、ナルトを含めた15人。
 中忍部隊の中でも精鋭中の精鋭が集められた第一部隊が出動するということは、この任務の難易度が かなり高いということになる。
 生死を問わず、と火影が言ったように、砂の忍との戦いもあるだろう。

「隊長、皆揃いました」
 最前で膝をついて、報告した忍に頷くと、ナルトは一同を見渡した。
「三組に別れ、砂の国に潜入する。諜報部の話では密書はまだ忍の手から依頼人の手には渡っていない 確立が高い。だが、それも時間の問題だろう。手分けして忍びの行方を探り、密書を奪い返さなければ ならない。相手はかなりの手練れだ、発見した場合は速やかに俺に連絡し、その場で待機すること。なお 密書が相手に渡った場合には、その相手ともども密書を消去する。方法は問わない」
「「「「「「はっ!」」」」」
 ナルトの命令に気持ちのいい応えがかえる。
 どの中忍の顔にもナルトに対する尊敬と憧憬が色濃く現れていた。
「では、散れ」
 ナルトが率いる組をのぞき、中忍たちの姿が森へ消えた。
「俺は一足先に砂へ潜入する。居場所については定期的にこの鳥に連絡させる」
「はい、ナルト様もお気をつけて」
 実力的には上忍をはれるナルトには無用の気遣いといえるが、ナルトは忍たちに淡い笑みを浮べ、
 頷いて見せた。






 ナルトのスピードは他の追随を許さないほど速い。木の葉の里でもナルトについて来られるのは5人にも 満たないだろう。立場は中忍でも、裏では暗部に十数年身を置いていたのはだてでは無い。
 ナルトが先行したのは、他のものに合わせるのが面倒だったこともあるが、それ以外にも理由があった。
 ナルトがこの任務につく直前に、舞い込んだ一通の書状。
 送り人の名は

 『我愛羅』

 術により封印がなされたそれを解除し、内容に目を通したナルトは命じられた任務との関わりに、相手の 要求どおり、会う約束をした。
 中忍試験以来、我愛羅とまともに顔をあわせるのは初めてとなる。
 さて、どんな風に変わったのか・・・それとも変わらずいるのか。

 想像したナルトは愉快だと、笑んだ。










「・・・動くな」
 殺気をこめて耳元で囁き、相手の首に極細の千枚通しを突きつけた。
 天下の往来、人通りの激しい場所で、相手の肩に手を置くようなナルトの仕草は仲がいい相手に向ける ようなもの、誰も不審には思わない。
「久しぶり・・・我愛羅」
 背を向けた我愛羅はナルトよりも長身で、昔は身に余っていた瓢箪も小さく見える。
「うずまき、ナルト・・・か?」
「そうだってばよ?」
 わざと語尾を崩し、くすり、と笑ってやる。
「これは罠ではない。俺の他にうちの忍が居ないのは、確認済み、だろう」
「確かに、な」
 ナルトは千枚通しを引いた。
 我愛羅が油断なく振り向く。
 ナルトは美貌の顔ににっこり笑顔を浮かべて、こう言った。

「お兄さん、そこでお茶しない?」
 腰まで流れる金髪が見事に輝き、すらりとした姿は・・・絶世の美女、にしか見えなかった。








「やっぱり珈琲は砂のオリジナル・ブレンド、ストレートよね」
「・・・・・。・・・・・」
「我愛羅、甘いもの好きなの?プリン・ア・ラ・モード注文するなんて・・・ちょっと意外。そういえば・・・無口な 人間って甘いもの好きなのかしら?知り合いにも一人居るんだけど」
「・・・・・。・・・・・」
「ねぇ、どうしたの?さっきからずっと黙ってて」
「いい加減、本題に入って、いいか・・・?」
 無表情ながら、心底嫌そうに話を促す我愛羅に、大笑しそうになるのを押さえ、ナルトは『どうぞ』と忍語を 無音で伝えた。

「密書の件、あれは・・・うちの馬鹿の暴走。こちらには一切関わり無い。煮るなり焼くなり、コロスなり・・・ 好きなように処理してもらって構わない」
「それだけか?そんなの言われくとも、そうする。せっかくここまで出向いたんだ・・・それが誰なのか、 まで言ったらどうだ?どさくさ紛れに始末しようと思っているんだろう?それとも俺たちにやらせて余計な手間を省くつもりか?」
「うずまきナルト・・・お前は、何故中忍のままでいる?」
 ナルトは口元を歪めた。
「さぁな。それが何か関係あるか?」
「・・・前風影が弟」
「へぇそれじゃ、我愛羅の”おじさん”てわけ?・・・どこでもみそっかすは居るものだな」
 風影の権力を笠に着た馬鹿だったのだろう。
「馬鹿のくせに・・・祭り上げられ、図にのった」
 想像通りのシナリオに笑う気さえ、おきない。
「つまり、本人より周りの連中が厄介なのか」
「・・・うずまきナルト」
「何?」
「お前に、その気があるのならば・・・砂は、準備が、ある」
 ナルトの口元が蠱惑的に歪んだ。
 明るい茶屋では酷く不似合いな表情だった。
「俺は、火影になる。それ以外に興味は無い」
「・・・・・。・・・・」
「我愛羅、他人の勧誘してる暇があればお前も早く風影になれよ・・・そのほうが楽しいからな」
 我愛羅は何もこたえない。
「ところで、砂の守鶴は元気か?」
「・・・余計な世話、だ」
「その様子じゃ、まだ制御できてないみたいだな・・・隈も残っているようだし?くす、そう殺気を飛ばすな。
 まぁ、続きは終わってからにするか。知らせだ」
「砂の忍は、12時間以内に限り、木の葉の動きを容認する」
 我愛羅の言葉に、ナルトは十分だと不敵に笑った。









 金髪美女から、黒髪の地味な男に変化したナルトは街道を歩きながら、すれ違う部下たちから情報を集めていた。

「人数は5名」
「場所は遊郭に」
「密書は未だ、渡らず」
「は組が見張りを」

「い、ろ組とも遊郭へ潜入。決行は二一時。砂の妨害は無い」
 ナルトは指示を下した。













 決着はあっけなく着いた。

「不相応な野望は持たないことだ」
 ナルトはすでに聞こえては居ないだろう相手に小刀を引き抜きながら忠告した。
 我愛羅の叔父という男は、”影”の重みも知らぬ愚かな男だった。

「うずまきナルト、その首(しるし)、渡してもらおう」

 突然現れた我愛羅に、囲んでいた中忍たちが気色ばむ。
 一斉に攻撃の姿勢をとった一同をナルトは笑って抑え、掻き切った男の首を我愛羅のほうへ投げた。
 持ち帰るべきは密書であり、男の首では無い。

「先に里へ」
「はっ」
 ナルトの指示に、一斉に頭を垂れ、姿を消した。

「我愛羅」
「・・・・・・」
 隙を見せない相手に、ナルトは笑った。
「まだこの里は、お前にとって生き難いか?」
「その問い、そのままお前に返す」
「生き難ければ、生き易いようにするまでのこと。・・・我愛羅、お前に安息をやろうか?」
 九尾の力があれば、守鶴を制御し、眠りを得ることも不可能では無い。
「・・・俺に何を望んでいる」
「何も」
 ナルトは他人を利用することはあっても何かを望むことなど無い。それが無駄だということを、幼い頃から 身に刻みこまれてきたから。だから、他人に望むくらいなら自ら実行する。
「何も望みはしないさ、俺はな」
「ならば、俺も・・望みは、ない」
 我愛羅が守鶴を身に封印し、制御できないままでいるなら、長く生きることは出来ない。
 人は睡眠なく生きることができるものではない。ここまで成長できたことさえ、奇跡なのだ。宿主が我愛羅 で無くば、普通の人として生きることさえ不可能だっただろう。
 だからこそ、前風影は、息子を選び・・・死を願った。

「意地っぱりめ。俺が無償で何かしてやるなど、もう二度と無いかもしれない・・・ってばよ?」
「これ以上、お前に借りは、作らない・・」
 中忍試験、そして手に掴んだ首のことか。
「これ以上、ね・・・だったら俺は、これまでのものをどう返済してくれるのか楽しみにしておこう」
 今夜のナルトは、機嫌がいいのか非常によく笑う。しかも楽しそうに。

「うずまき、ナルト」
 我愛羅には全く殺気が無かった・・・だから、許した。
 近づくことを。
 触れる、ことを。

「・・・・・感謝する」
「ばーか。さっさと行け」
「今度、会うときは・・・」

「火影だ」

 ナルトは宣言した。