鎮魂歌





ごめん、生まれたばかりの君にこんな酷い贈り物しか出来ない親で・・・恨まないでくれなんて言えない。
だけど、どうか・・どうか、忘れないでいて。僕は君を愛していた。この世で何よりも、君を愛していた。
・・・ごめん、傍に居てあげられなくて。ごめん、一緒に遊んであげられなくて、ごめん。ごめん。

ごめん・・・ごめん・・・・

ごめん











「うわ、ナルト・・・今日は何だか朝から不機嫌?」
「ああ」
 任務受付所・・・暗部専用のそこでナルトと運良くかち合ったカカシは声を掛けようとして、ナルトの あふれ出る冷ややかなプレッシャーに一歩引いた。
 そんなカカシにいつも以上に短い返事がかえる。何か答えてもらえただけマシかもしれない。
「どうかした?」
 下忍時代のようにスリーマンセルで毎日顔をあわせることができなくなってしまったため、すぐには ナルトの近況がわからない。せめてカカシと同じように上忍であれば、任務でペアを組むことも可能 なのに、なぜかナルトは上忍になろうとはしない。
 中忍になって以来、すでに3回は上忍昇格試験があったが、全てを受けているわりにどうやらぎりぎりの ところで落ちているらしい。ナルトのことだから何か狙いがあるのだろうが。
 カカシにとっては、ナルト欠乏症で今にもどうかなってしまいそうだった。
 そんなところへ天の恵みか、神の恩寵か、裏の任務で久しぶりにナルトに出会うことが出来たのだ。
「別に、訳のわからない夢にいらついただけだ」
「夢?」
「ああ、そんなことより、カカシ。お前最近腕が落ちたんじゃないのか?」
「え?」
「任務の消化率と速度が落ちてると聞いてる」
「は?え!?何でナルトがそんなこと知ってるの??」
「ばーか、オレを誰だと想ってる?役立たずのカカシなんて雀を追う役にさえ立ちゃしない。見捨てられ たくなかった、せいぜいしっかり働くんだな」
「ナ・・・ナルト~~~っ!!」
 哀れな叫び声をあげたカカシを扉でシャットアウトして、火影から任務を受け取るべく歩みを進めた。











「ちっ」
 ナルトは小さく舌打ちすると、面をはずし、隙間から入りこんだ返り血を振り払った。
 いつもなら返り血など浴びるより早く、相手から離れているというのに・・・夢がナルトの思考を遮る。


     ( ごめん・・・ごめん・・・・


 ダレが?ナニが?

「・・・今さら」
 今さら謝られてどうなるというのか。
 それとも。
 夢は自身の願望の現われとも言う・・・あの夢はナルトの願望だというのだろうか?
「馬鹿馬鹿しい」
 そんなあっさりした願望を持つくらいならここまで歪んで育ちはしない。
 では、何なのか。
 ナルトに夢の中で語りかける、あの影は・・・誰?
「ふん・・・それこそ可能性は一つしかない、さ」
 呟きながら、ナルトは今夜最後のターゲットの息の根を止めた。




 

 地上を睥睨できる、背の高い木の頂上へ登り、煌々と輝く月を見上げる。
 面を外し、変化を解いたナルトの姿が月の下で露になっている。
 腰まで伸びた金髪がきらきらと光を反射し、表情を消した頬は光にさらされ色をなくす。
 見惚れるほどに美しい光景だが、近寄りがたく、神聖だった。


    ( ごめん・・・君を苦しめて・・・・


「ああ、確かに。苦しんだこともあったさ・・・あんたのせいでな」
 月を見上げ、月に語る。
「そして、コレを憎んでる。今も・・・これからもずっと」

 
    ( ごめん・・・ごめん・・・・


「だけどな、感謝もしている。この力に・・・・・・オレは生かされてる」
 ナルトは月に向かって手を捧げ、その手を見つめた。
「この力が無ければオレは”普通”の人生を送っただろう。ありふれた平和を手に入れて、ありふれた幸福
 を感じて墓に入っただろう・・・・だが、オレにはこの力がある。忌むべき禍々しくも強大な力が。オレは・・・
 この力を利用する。己の意のままに・・・・・誰も辿ることのない生き方をしてやろう」

 下ろした手を拳に握り、無表情で目を閉じた後・・・・ナルトは、そっと微笑を浮かべた。


「オレは・・・・恨んだことは無い、あんたを・・・・自分でも不思議なことにな」
 だから。
 
「もう、・・・・・謝るな」
 オレはオレの生き方に満足しているんだから―――。













 ナルトがその夢を見ることは二度と無かった。