神聖なる日・ナルト誕生日.16歳
この日は何より、ナルトの嫌いな日だった。
だが、ほんの少しずつそれは変わりはじめていたのだ。
ナルトは、その日に初めてこの場所に立っていた。
チビだった身長も人並みに伸びてはいたが、それでもまだこの慰霊碑の前に立つと
首が痛くなるほどに見上げなければ尖頭は見えない。
その石碑にぴっしりと刻み込まれた文字は全て人の名前。
九尾に果敢に立ち向かい、里人のために命を落としていった仲間のものだ。
そして滅多に誰も見ることは出来ないが一番上の尖頭部分には英雄である四代目火影の名が大きく刻まれている。
それをナルトは、今日初めて・・・己の誕生日に目にしていた。
「・・・・・・」
死んだ仲間たちを慰めるために立てられた慰霊碑。
だが、実際にこの下に眠る者は居ない。
それはただの象徴であり、ナルトにしてみればただの『石』でしかない。
それでもナルトはただの『石』の前に16になるまで立つことが出来なかった。
里人が近づけさせなかったせいもある。
だが、それさえもいいわけだ。
・・・・・怖かったのだろう。
何が、と問われると困ってしまうが、確かにナルトは怖かったのだ。
「ナルト、どうしたの?」
12のときからずっと性懲りもなく、ひたすら付きまとい続けているカカシが背後から声をかける。
「いや・・・」
ナルトはその声に首を振り、一歩一歩慰霊碑に近づいていく。
そして、あと一歩というところで立ち止まったナルトは胸に手を当て、碑に向かい黙祷した後、口を開いた。
「俺が、俺として今日ここにあるのは、あんたたちのおかげだ。あんんたたちが
命をかけ、この里を守り、俺に九尾の力を与えてくれた。俺は生まれたその瞬間に
何にも代えがたい贈り物をしてもらっていたのだと漸く気づいた。・・・遅すぎたとは
思わない。だから・・精一杯俺はこの木の葉の隠れ里の忍として、あんたたちの
犠牲・・いや、成果を無駄にはしない、決して。絶対に約束する。あんたたちが命を
かけ、そうしてくれたように、俺も命をかけ誓う」
ナルトの横をやわらかな風が吹き抜け、金色の髪を揺らした。
「ナルトにそんなこと言われるなんて・・・そいつら殺してやりたいよ・・・」
「ばーか、もうとっくに死んでんだから無理だろ」
「だから余計にムカつく」
振り返ったナルトは子供のようにすねているカカシに苦笑した。
「お前だってこれから役に立ってくれるだろう?」
「っっもちろんっ!ナルトのためだったら火の中水の中・・・どこへだって!!」
「ふ~ん、それじゃアスマみたいに遠方任務行く?」
「冗談っ!俺はナルトの傍がいい!」
「・・・・・・。ま、いいけどな・・・」
「それより、ナルト」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
「ああ、サンキュー」
笑って答えられるようになった。
色々あったこの四年間。
肉体面はもちろんのこと、精神面においてナルトは著しく成長した。
「ね~、ナルト。この後暇?」
「あ、悪い。サスケたちに飲み会誘われてる」
「っ!いつの間にっ!!」
「半年前くらいから」
「俺も行く!俺も!」
「あんたが来たら一気に座がしらけるだろ。年寄りは年寄りらしく家でのんびりしてたら?」
「俺はまだバリバリ現役ですっ!実地で証明してあげようか?」
カカシの目がにやりと歪む。
ナルトははぁとため息をついた。
「お前、それだから変態上忍だって言われるんだよ・・・とにかく、ついて来んなよ」
「酷い!ナルト・・・俺のことそんなに嫌いだったんだ」
「ん、嫌われてるって思いたい?」
「絶対に、嫌」
言い切るカカシにナルトは微笑した。
思わずカカシが見惚れてしまうほどにその表情は美しかった。
「ま、そのうちな」
「っえ・・・え?えぇ!?何が!?え・・?え?え?」
何事にも無頓着。
いつも表情を変えないカカシのみっともないまでのうろたえよう。
「じゃぁな!」
「ナルトっ!」
その一瞬の隙をついてナルトはカカシをまいた。
「や、やられた・・・」
がっくし、と肩を落としたカカシはだが諦めはしない。
「絶対に場所つきとめてやるからね!」
めらめらと闘志が燃え上がる。
任務中もそれだけ熱心だったもっと仕事も楽だろうとアスマあたりが見ていればこぼしていただろうが、生憎そこにはカカシ以外に誰も居ない。
「待っててよ、ナルト~~っ!!」
果たしてカカシはナルトを見つけることが出来るのか?