神聖なる日・ナルト誕生日.12歳









10月10日

それはナルトにとって最も忌みたる日である。


己の誕生日であり
九尾が封じられた日であり、

多くの人間が死んだ日



全ての憎しみの根源がここにある。










 また、この日がやって来た。
 ナルトは壁に掛けられている毎年商店街で無料配布されているカレンダーの 赤く印のついた場所を睨みつけた。

 それは木の葉の隠れ里の祝日で、この日限りはどこの商店も店を閉め、老若 男女区別なく、誰も彼もが里の中心にある慰霊碑へ参る。
 そこで手を合わせ、英雄の死を悼み今自分たちが平和にあることを感謝し、 そして命を落とした里人のために涙を流す。
 それだけ、ならばまだいい。

 だが一年ごとに繰り返されるその行為は全ての思いを風化させることなく新たに心に刻み込ませる。


 つまり、九尾への憎悪。






「ったく、いい加減ウザイな・・・」
 ナルトの家の周りには殺気が渦巻いている。
 もちろん火影の命令でそれ以上に近づいてくる気配は無い。
 だが、鬱陶しいことに違いない。

 ナルトが本気を出せばこの程度の有象無象、簡単に片付けることができる。
 だが、何故こんな馬鹿な奴ら相手に今まで被ってきた仮面を剥がさねばならない?
 冗談じゃない。
 そんなことするくらいならば、気配を消して朝日を待っていたほうが余程マシ。
 どうせあいつらは何もできないのだから。
 そう思い、ナルトが気配を隠した瞬間、里人の殺気まで消えた。

「・・・?何・・」

 唐突に・・・不自然すぎるほど。

 何があった?
 ナルトは外の気配に耳を澄ます。
 すると・・・・





「「ナ~ルトっ!」」

「・・・・・。・・・・・」
 こんな日に一番聞きたくない能天気な声がした。

「ナルトってば!居るんでショ?」
「ナルトっ!邪魔するぜ?」

 ああ、うるさい。
 何だってこいつらは追い払っても追い払ってもたかってくるんだろう。
 まるで―――― 蝿。
 ぶんぶん煩いところまでそっくりだ。
 ナルトは自身で思ったことに深く頷いてしまった。

 そのナルトの現実逃避とも言える思考の間にも扉はどんどんと叩き続けられる。
 このまま無視していれば確実に破壊される。
 ナルトは入り口に向け、殺気を投げかけてやった。

 一瞬、静かになる。
 ・・・が、それもほんの一瞬だけ。


「ナルトっ!やっぱり居たんだ~」
「ここ、開けてくれ」
「・・・・。・・・・・」
 何てことだ。
 自分で居留守であることをバラしてしまうとは・・・・・不覚。

 ナルトはベッドから起き上がるとしぶしぶ扉を開いてやった。
 もちろん不機嫌な顔で。
「何のようだ、変態。熊」
「ナルト~~っvv・・・て熊てアスマのことだよな・・てことは変態て俺?」
「そのまんまじゃねぇか」
 うけたアスマが笑い声をたてる。
「お前の熊だってそのまんまだろうがっ!」
「あのな、お前ら・・・ここをどこだと思ってんだ・・・」
 ナルトの地を這うような低音に二人はぴたりと言い合いをやめた。


「で、何の用?」
 神妙に椅子に腰かけた・・・(ナルトの家には家主のものである椅子一脚しか無い
 ので二人が持参した)・・・カカシとアスマへナルトは据わりきった視線を向けた。
「いやだな~、そんなの決まってるでショ?」
「そうそう、まさか今日が何の日か忘れてねーよな?」
「・・・・。・・・・・」
 いっそ忘れてしまいたい。
 
「そういうわけで~」
 どういうわけだ?
「まぁ、そんなわけよ」
 だから何が?













「誕生日おめでとう、ナルト」
「誕生日おめでとよ、ナルト」












「・・・・・・・・。・・・・・・・・・」

「??どうしたの、ナルト?」
「どうしたんだ?」
 まるで反応をかえさないナルトに二人は首を傾げる。
 
「・・・・・・い?」
「「え?」」




「そんなに俺が生まれた日がおめでたいかよ・・こんな・・鬱陶しい日がっ」
 ナルトの手がぎゅっと握り締められ、部屋にバチバチッと静電気が走る。



「ナ・・・ナルト・・っ」


「こんな日おめでたくも・・・何とも無いっ!一年で一番最悪な日だっ!!」
 ナルトの高ぶった感情に感応し、大気中に静電気が発生し、帯電したナルトの
 拳が青く発光する。

「ナルト・・っ!!」
「ナルト!」
 だが、カカシとアスマはそんなことも構わず、ナルトの手を握り締めた。

 バチバチっと音がして、嫌な臭いが漂う。
 ・・・・肉が焼けた臭いだ。


「そんなこと・・言わないでよ、ナルト。俺たちにとって今日は・・・本当に大好きな  ナルトが生まれてきた大切な日なんだからっ」
「そうだぜ、周りが何と言おうと今日はめでたい日なんだ」
「言いたいことはそれだけ・・・・?」
 ナルトの青い瞳に冷ややかな光が灯る。
「「ナルト・・・」」
「今さら、だろう・・・・?」
 そう、今さら祝われて・・・どうだというのだ?
 この12年間、ずっとひと時も休まることなく憎まれてきたこの身を祝われて。
 それで何かが変わるというのか?

「・・・ごめん」
「すまねぇ・・・」

「何でお前らが謝ってんだよ・・」

「でも・・・ごめん」
「すまん」

「だから・・・・・謝ってんじゃねぇよっ!」

「ごめん!」
「すまねぇ!」

「・・・っ・・・・・もういいっ!」

「「ナルトっ!!」」

 ばっと二人の手を振り払い、ナルトは姿を消した。








「誕生日プレゼント、渡し損ねた・・・」
「・・・置いとくか?」
「受け取ってくれると思う?」
「まぁ・・・9割の確立でゴミ箱直行」
「・・・じゃぁ、あとの1割にかけてみるよ」
「それなら、俺も」
 
 カカシとアスマは二人で持ってきた花をテーブルに飾り、ナルトが前々から欲しがっていた巻物とクナイのセットを脇に置いた。
 たとえ、品物が捨てられたとしてもナルトの誕生日を祝いたかった気持ちを少しでも伝えたかったから。
 ナルトが生まれてきて本当に嬉しかったことを。

 だから・・・・





「HappyBirthday、ナルト」
 受け取ってもらえなかった言葉の代わりに、メッセージを残した。