明日はきっと晴れ
雨は嫌いじゃない。
むしろ好きだと言ったほうがいいかもしれない。
……このジットリ感さえ無ければ。
小窓に映る雨だれを見ながらナルトはため息を呑み込んだ。
だいたい、だ。
「はーい!フラッシュね~」
「ちっ、ツーペアだ」
「またまた俺の勝ち~、ほら出せよ。アスマったら弱いね~」
「余計な世話だ。ほらよ」
ナルトは手を握り締めた。
「・・・てめぇら人の家で何してやがる・・・」
「あ、ナルト!ナルトも参加する?」
「いい加減こいつとするのも飽きてきたしな」
「忍法・・・・・・火遁の術!」
「「うわっ!」」
ナルトの炎が上忍二人を襲った。
「・・酷いよ、ナルト~」
「一張羅が・・・」
ぷすぷすという音と焦げ臭い匂いを漂わせて上忍二人がナルトに恨み
がましい視線を向ける。
それを冷えきった視線で見返すナルトからは殺気が立ち昇る。
「何が酷いだ。人が任務から帰ってきてみれば、いつ入りこんだのか、どかどか
無断で上がりこんで、おまけにトランプゲームだぁ?・・・ふざけてんじゃねぇぞ」
最後のセリフには更にドスがきいている。
「あ、いや~。これは、まぁそれだ何というか・・・」
「ナルト誤解だ。俺は部屋の外で待っていようと言ったんだが、このカカシの
馬鹿があの軽い調子で大丈夫だと言い張って俺まで道連れにしやがったんだ」
「ほほぅ・・・」
「えっ!おいっアスマっ!・・・っ!?」
「カカシ・・・覚悟は出来てんだろうな?」
ナルトの片方の口角が上がる。
・・・だが、決して笑っているのではない。
カカシの顔がひきつった。
「はい、珈琲です。ナルトさま」
数分後、更にいっそうボロボロになったカカシがナルトに命令されて、しずしず
とナルトの前に珈琲カップを置いた。
「ついでに俺にもくれ」
「自分で淹れろ」
ナルト以外に使われるつもりの無いカカシとアスマが睨みあう。
「お前ら・・追い出されたいのか?」
鶴の一声ならぬナルトの一声で二人は同時に口をつぐむ。
「お前らは任務入ってなかったのかよ・・」
二人は首をふる。
「ったく、火影のじっちゃんも人使いが荒いぜ」
疲れた様子でナルトは息を吐いた。
その姿には妙な年季が感じられてとてもいつもの元気一杯なナルトと同一
人物とは思えない。
「雨の日にご苦労様でした」
「災難だったな。雨で下忍の任務がお流れになったせいだろ」
「下忍の任務もたりぃな~と思わないでも無いけどさ、雨の日に雲の国まで
ひとっ走りさせられるくらいなら、そのほうがマシだな」
「また随分遠くまで行ってきたもんだな」
「そう思うだろ?・・・やっぱ臨時ボーナス貰ってやらないとな・・・」
ナルトの青い瞳が険を帯びる。
頭の中では吝嗇(けち)の火影からどうやって金を奪い取るかという算段が
着々と練られているに違いない。
何しろかつて波の国での任務で、CランクだったものがBランクにアップした
事があったが、それだって・・・『確かにランク的にはBじゃったろう。だがのう、
依頼はCランク。とすれば報酬もCランク。当然じゃろ』・・と堂々と言い放った
火影である一筋縄ではいくまい。
「・・・・忍の数でも減れば報酬もアップするかな・・・」
ナルトの不穏なセリフに上忍二人が凍りつく。
「・・・ま・・・まぁまぁ、ナルト」
「それは最終手段にしとこうや」
「な?俺たちも火影のじじぃ・・・いや、火影さまに掛け合ってやるからね~」
こういう時だけ息がぴったりのカカシとアスマをナルトは睨みつけ、そして一瞬後
にやりと笑った。
「・・・その言葉、忘れんなよ」
・・・はかられたっ!
気づいた時にはすでに遅し。
覆水盆に返らず。
しっかり言質を取られたアスマとカカシは、是非ともそんな事態にならないよう
に火影がナルトに臨時ボーナスを出してくれることを願うばかりだ。
「・・・・明日は晴れるといいな」
「・・・・晴れて欲しいね~ぇ・・・」
これ以上、ナルトが不機嫌にならないうちに。
「よしっ!今日はカカシの奢りで一楽だ!」
ぽん、と手を打ちナルトは宣言した。
「えぇぇっ!?俺、奢るの~~」
「当然」
「じゃ、俺も」
「何で熊にまで・・・」
「そうと決まれば出発~~っ!!」
「・・・決定されてるしさ・・・」
カカシは懐から財布を取り出し、中身を吟味するのだった。
「よ~し、喰うぞ~~」
気合を入れるナルト。このぶんでは全メニュー制覇とか言い出しそうだ。
「ご馳走さん」
「お前らね・・・・」
カカシはがっくりと肩を落とした。
ああ、明日はきっと晴れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・て欲しい。
しみじみとカカシは思うのだった。