小さい幸せみ~つけた!
その日、木の葉の里では奇妙な事件が続発していた。
ある隻眼の口元を隠した上忍曰く、
「何かさ~よくわかんないんだけど・・・いつもみたいに本読みながら歩いてたら・・・
落ちちゃってたんだよね~」
彼は地面から首だけ出した状態でそう教えてくれた。
・・・出ようとは思わないのだろうか?
幸い、ここは通行人も滅多に通りがからず迷惑をかけるということも無さそうだが・・
まぁ、本人が気にしていないのだからよしとしよう。
続いて話を聞いたのは、万年病気がちの顔色が悪い上忍。
彼は咳き込みながらこう話してくれた。
「ごほごほっ・・・そうですね・・・朝目が覚めたら・・・・ごほっ鏡に映った自分の顔が
頬が妙に赤くて目元の隈が無くなっていました・・ごほっごほっ・・・触ってみたら・・
どうやら・・・ごほごほっ・・・世に言う・・・ふぁんでーしょん、なるものがついてまして」
それ以外にもアイシャドウや口紅もついていたが気にならないのか、その上忍は
その顔のまま任務受付所に歩いていった模様である。
もしかすると・・・気に入っていたのかもしれない。
次に話を聞いたのは美貌のナイスバディのくの一で、彼女自身に被害は無かったらしいが・・・。
「ああ、そういえば熊が・・・」
ちなみに熊というのは彼女の同僚である。
「家の前通りがかったら何か雄たけびあげてるからどうしたのかな~て思って窓から覗いてみたら」
そこで彼女は耐えられない、とひとしきり腹を抱えて笑うと・・・・
「無くなってたのよっ!髭!!」
それだけ言うと再び発作が起こったように爆笑し、目に涙を貯めていた。
他人の不幸は蜜の味、という言葉があるが真実なのかもしれない。
その他にも上忍を中心としたその被害は留まるところを知らず木の葉の里中に
広がっていた。
「なぁ、見つかったか?」
上忍詰め所『人生色々』では被害にあった上忍たちが顔をつき合わせて犯人究明ならぬ犯人の居場所捜しを行っていた。
顎を布で隠した熊・・・もとい、上忍アスマが、綺麗に弓形を描いた眉のガイに
問いただす。太い眉が自慢の彼(ガイ)だっただけにその衝撃はつやつやした髪の
中に一房白いものがまじることで伺える。
けれど、他の上忍たちには受けた。大層受けた。
そしてすっきりしていい、と好評でもある・・・本人は全く喜んでいないが。
「見つからない」
応える声も普段の熱気は欠片も感じられず静かだ。
「だが、里は出てないはずだろう?」
だよな、という問いかけに漸く落とし穴から出てきたカカシは頷く。
「そう、今日はお休みで任務入ってないからね~」
「しかしわからんのは・・・こんなことをしてどんな得があるのかということだ」
数々の拷問で作られた傷はそのままに、新たに顔の半分だけ色違いの部分が
出来てしまっいる森乃イビキは(どうやら油性マジックで色を塗られたらしい)、同僚
たちに『ブラックジャック』という有難い愛称をいただいた。
「そんなの決まってるじゃない!」
唯一というか、くの一連中は被害を受けていないのだが・・紅はともすれば噴出してしまいそうになる笑いを我慢しつつ、言い放った。
「「「「・・・・??」」」」
「面白いからよ!」
男たちは何とも情け無い顔をさらした。
「くくくっ、久しぶりの休みだもんな~。今まで我慢してたことやれてすっきりしたぜ!」
ぽりぽりぽりっ。
ソファにうつぶせになり、お茶とお菓子を脇においてリラックスしているのは
サスケに言わせるところ、『ドベ』で『ウスラトンカチ』のナルトである。
まるで自宅のようにくつろいでいるが、ここはナルトの家では無かった。
「お前のぅ・・・」
目の前の水晶を覗きながら呆れたようにため息をついたのは、3代目火影である。
実質、ナルトの後見人でもある。
「詰め所は大変な騒ぎになっておるぞ?」
「だって騒ぎになりそうなことしたんだもん」
まるで悪びれないナルトに再び火影はため息をつく。
悪戯をされたのは上忍の中でもそれぞれに秀で下忍などには到底太刀打ちできぬ
者たちばかり・・・なのだが。形式的には下忍でも実質上忍以上の実力を有する
ナルトには全く問題にならなかったらしい。
溜まり溜まっていたストレスを解消して、すっきり。という顔をしている。
「里うろついてたら誰かに見つかるかもしれないし、今日はじっちゃんの所に泊めて
もらうからさ!よろしくってばv」
「わしの家は避難場所か?」
「じっちゃんだって実は楽しんでたくせに」
「・・・・・。・・・・・」
そう言われれば火影に否やはない。
黙認していただけに共犯だからだ。
「じゃが明日は任務があるぞ?」
「明日は明日。今日は今日。いつまでも過去をひきずってたらダメだってば?」
「・・・・・。・・・・・」
そういう問題では無いのだが・・・。
「それに・・・熊もイビキもハヤテも明日から任務入ってるだろ?」
「・・・・計画的犯行か」
全くどこで情報を仕入れてくるのやら。
ナルトの悪戯は後々のことまで考えて計画されていたらしい。
「だが、カカシは?」
「あ、大丈夫。あいつが一番簡単だから」
「・・・?」
「だって、『ごめんってば!』て笑顔で言えばすぐに誤魔化されてくるから」
にこやかにそう言うナルトの笑顔は曲者だった。
「・・・・・。・・・・・・」
いいようにナルトに遊ばれる上忍たち。
さすがの火影も里の未来を案じずにはいられなかった。
「本当、充実した休みを過ごせたな。幸せてこういうこと言うんだってば!」
それは違う!
・・・と悪戯された上忍たちが聞いていれば叫んだことだろう。
とにかくこの事件はいつのまにかうやむやのうちに闇に葬られたのだった。