悟りの境地
人間、全てを悟ることなど不可能だ。
しかし、ある程度「悟る」ことは必要だ。
悟るという・・・「諦め」が。
事実、ナルトは齢3歳にして、誰かに頼るということは無駄だということを悟った。
犬は1歳で成人するとはいえ、人間で3歳といえばようやく物心がつきはじめた頃。
そんな幼くしてナルトは悟ったのだ。
突き抜けた、ともいう。
1メートルにも満たない背丈で幼児は上を見上げた。
空は青い。時には赤い。
白い雲は流れていく。ゆっくりと、時には早く。
刻一刻と変わっていく風景。
けれど。
周囲の人間が己を見る視線だけは変わらなかった。
それまでは何だかわからないまま、「どうして、俺だけが」・・・そんな風に悔しくて、
悲しくて腹立たしくて・・・悲しくて・・・色々な感情がナルトの中で渦巻いていた。
それが、突然、どうでもよくなった。
「ああ・・・俺は独りなんだ」
だから頼る者など、はなからいないのだ。存在しないのだ。
存在しないのならば気にかける必要もない。
ナルトの心のスイッチが・・・・・・・・・・”OFF”になった瞬間。
そして十数年の時が流れる。
「仲間・・・・・仲間、ねぇ・・・」
ナルトはくくっと笑う。
「・・・普通、そこで笑うかなぁ?」
背後に気配が生まれる。
前方を歩いていたナルトは驚きもせず、歩みも止めない。
どうやら無視するつもりらしい。
「ナルトは嫌い?仲間っていうのはさ?」
それでも相手は諦めずにナルトにあわせて歩きながら問いかけてくる。
「別に。俺には関係ない。・・・珍しくあんたがまともなこと言ってただからおかしかった
だけ・・・・だってばv」
「・・・・・・・・」
言葉尻だけいつものナルトのようにおどけてみせれば、ナルトの担当上忍であり、
上司でもあるはたけカカシは居心地悪そうにみじろいだ。
「なぁ、ナルト・・・・っ!」
カカシの伸ばした手が・・・パシッという音ともに見えない障壁にはじかれた。
「半径1メートル以内に近づくな・・・でなければ」
「なければ?」
「変態が移る」
「・・・・・・・・・・」
あまりないい様にさすがのカカシもくじけそうになる。
一回り以上も年が違う子供にこれほどに翻弄されるなんて、はたけカカシの
名がすたる。けれど、この子供は普通の「子供」では無いのも確かだった。
「『仲間を大切にしない奴はクズだ』か・・・フフ・・」
「・・・・・。・・・・・」
声まで真似てナルトはカカシのセリフを繰り返す。
「だったらさ・・・・・」
この里の奴らは皆、『クズ』だね。
小さな赤ん坊に化け物を封じて、自らの安住を求めた人間たち。
「わかってる。俺は『仲間』じゃないってば?だから俺は別に何されたって気にしない。
でもさ、俺にこれを封印した奴はあんたらの『仲間』だったわけだろ?」
笑って振り返ってやれば、カカシの瞳は泣きそうに歪んでいた。
「ナルト・・・」
「だから近寄るなって」
再び手を伸ばしてきたカカシの手を、今度はナルト自らぱしり、と落とす。
それでもカカシは伸ばしてくる。
その度に払い落として。
ぱしり。
ぱしり。
ぱしりっ。
「・・・いい加減しつこいってば」
「ナルト」
頭にきたナルトが実力行使に出ようと印を組んだ指が・・・丸ごとカカシの手の中に
包まれた。
「・・・・っおい!」
「ナルト、お前は仲間だよ。里人にとってそうでなくても、俺にとっては唯一無二の
仲間だよ。だから大切にしたい。大切に・・・・」
いったいどの口がそんなクサイ言葉を吐くのだろう。
「・・・・・・。あ、そう」
ナルトはするりと綺麗な弧を描いてカカシの傍から飛びのくと一目散に走りだした。
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿・・・馬カカシ」
今さら仲間だ?
大切にしたい?
遅いんだよ。手遅れだ。
今の自分はそんな都合のいい言葉を信用するほど甘くない。
気づけば、自分の周りは全て敵だった。
憎悪の視線。
蔑視。
嫌悪。
忌避。
自分を取り巻くものは負の感情だけ。
絶えず緊張して一瞬も気の休まる時は無かった。
だから心を殺した。
何かを感じる心は不要なものだったから。
それを今さら・・・。
「俺は独りだ。仲間なんていらない」
だから強要するな、それを俺に。
「でも俺はナルトを仲間だと思ってるよ」
「・・・・いつまでついて来るつもりだってば?」
撒いても撒いても追ってくるカカシは鬱陶しいこと限りない。
「いい加減・・・・・殺すよ?」
目を細めて、殺気を飛ばす。
普通の人間ならそれで気を失ってしまうほどに強く。
カカシは漸く足を止めた。
「じゃあね、カカシセンセ。明日の任務に遅れるなってば!」
にっこり、いつものナルトの顔で笑ってやった。
「ナルトっ!俺は・・・・お前は仲間だからなっ!」
遠くなるナルトの姿を見送りながらカカシが叫んでいた。