眩きモノ


 ナルトは、朝一番に暗部の任務で火影に呼び出されていた。
 だいたい暗部の任務は夜に行われるものだが、まぁ朝に任務が告げられることも少なくは無い。
 だから、それ自体は別段問題では無い。

「海の国?」
「そうじゃ、護衛任務を命じる」
「確か、海の国っていったら忍里の無い国の一つだったよな」
「うむ」
「……オレ、暗部だよな?」
 暗部の正式名称は”暗殺戦術特殊部隊”である。
 もちろん暗殺以外にも任務を請け負うことが、どれもSランクに属するものとなる。
「……うむ」
「それが護衛任務?余程重要人物なんだな。誰だ?」
「……うむ、火の国の重要人物で海の国には仕事と観光で出むいている」
「ふーん」
 ナルトは椅子を引き寄せ、テーブルに足を乗せた。やる気はこれっぽっちも無い。
「その人物の護衛をしてもらいたい」
「ヤだ」
「ナルト!」
「だって、つまんねーもん。他の奴にやらせたら?」
「そうもいかん。重要人物じゃと言うたであろう。……彼の頭の中にある情報は千金の値打ちがあり、
他里の忍たちも狙っておるのじゃ」
「だったら、何で最初っから忍の1人や2人つけとかなかったんだ?」
「気難しい人物で、解雇された。そこでお主に何とか相手に不快を与えぬように護衛してもらいたい」
「めんどくさー」
 ナルトのやる気はとことん低い。
 ここのところ続いているうだるような暑さのせいかもしれない。
「火影命令じゃ!」
「横暴だってばよっ!」
 火影とナルトが執務机を挟んで睨み合う。
「……任務終了の暁には二日の休みを与えよう」
「五日」
「……三日!」
「四日!これ以上はまけられないな」
「むむ……三日の禁術書1巻でどうじゃ!」
「乗った!」
 ナルトは火影から依頼書を受け取ると、すぐさま姿を消した。
 それを見送る火影はというと……
「ふぅぅぅぅ……」
 大きな息を吐き出しながら胸を撫で下ろしていた。















 海の国は火の国より南にある小国で、リゾート地として有名らしい。
 依頼書を確認したナルトは依頼人である『重要人物』と待ち合わせ場所になっているプライベートビーチに出向いていた。
 恐らく視界の先にあるパラソルの下、寝転んでいる人物がそうなのだろう……

 ……
 ……

 ちょっと待て。
 ナルトは近寄ろうとした足を止めた。
 あのパラソルの傘に描かれている模様に、有りえないほどに心当たりがある。
 目を閉じ、再度確認する。
 やはりアレは、どう見ても……

 『うちはマーク』に見える。

 ナルトは一気に脱力し、頭を抱えてしゃがみこんだ。





 また……また……ハメられた……ッ!!!!





 怒りと諦めと自分の阿呆さ加減を心の内で盛大に罵るナルトに近づく気配がした。
 顔を上げずともわかる。
 ここまで近づけば、チャクラで相手の素性など簡単にわかる。相手が隠そうとしないなら尚更。

「ナルト。ようこそ、うちはの別荘へ」
「くそイタチっ」
「あまりに来るのが襲いので、待ち焦がれて……日干しになりそうだった」
「日干しにでも煮干にでも勝手になってろ!……オレは帰るっ!」
 背を向けたナルトを、一瞬早くイタチが抱き上げた。
「ッイタ……っ」
「会いたかった……会いたかった」
「!!!……。……」
「この太陽の下で輝く……ナルトを想像して、我慢ならなくなった」
 それで火影に依頼にかこつけて、ここまでナルトを呼び出す協力を要請したらしい。

(くそジジィ、いったいイタチにどんな弱味握られてやがる……)

「騙したかった訳では無い。ただ呼んだだけでは、ナルトは来てくれないだろうから」
「……。……」
 それは正しい。
 ナルトは任務以外では、もっぱらインドアな人間だ。何が楽しくて海になぞ。
 …………。
 ナルトはイタチの腕の中で、硬直を解いた。
 もう、ここまでくると諦めの境地だ。
「許してくれるか、私を?」
 イタチのすがるような声がナルトの耳元で響く。
 暗部の中隊長を務めるような人間が、こんな調子でいいのか?(いいわけない)
「……許して欲しいならさっさと手放せ。逃げないから」
「…………」
 しぶしぶと、イタチは白い砂浜にナルトを下ろした。
「ホント、お前……いい加減にしろよ?」
 振り向いて、見上げたイタチのあまりに情け無さそうな表情に溜息とともに吐き出す。
「ナルト」
「三食昼寝おやつに夜食に忍術書付き、これで勘弁しとく」
「ナルト!」
 ぱぁぁとイタチの顔が輝いた。普段無表情なぶん不気味だ。


「って抱きつくなっ!暑い!鬱陶しい!!!」