愛でしモノ


「とりあえず、明けましてオメデトウゴザイマス」
「おめでとう」
 素直に言えないナルトに苦笑を浮かべつつ三代目は挨拶を返した。
 里の首長ともなれば、年始の挨拶に引きも切れず客が次々と挨拶に訪れるため、昼を過ぎ
 夕方近くになりやっと落ち着いた。
 ほうっと喧騒から遠く静かに縁側で茶を飲んでいた三代目のもとに、人目を忍ぶようにやって
 きたのは『うずまきナルト』だった。
 変化の術など使っていない、そのままのナルト。
「まぁ、茶でも飲んで帰るがいい」
「いや」
 躊躇するナルトに、三代目は自分の隣をぽんぽんと叩く。
 ナルトはがしがしっと髪をかくと、はぁと息を吐き出し、しぶしぶながらそこへ腰を下ろした。






 
 人払いをしているのか、二人の邪魔をする者は現れない。
 静かな時間が流れていく。

「・・なぁ、じっちゃん」
 先にその静寂を破ったのはナルトだった。
「何じゃ?」
「イタチの奴……どうにか何ない?」
「どうにか、とは?」
 この狸爺め、とナルトは三代目を睨んだ。
「勝手に付き纏うわ、勝手に籍入れやがるわ、勝手に人のこと助けるわ……あげくの果てに俺が ”うちは”になるつもりは無いって言ってやったら、今度は自分が”うずまき”になるとか言い出しやがって……」
「ほっほっほっ」
「笑い事じゃねぇっ!」
「そうは言うが、儂にどうにかできることでもあるまいしの。いや、しかしイタチが”うずまき”か……
 うずまきイタチ、なかなか良いでは無いか?」
「いいわけあるかっっ!!」
 叫んで立ち上がったナルトは、疲れたように力なく座りなおした。
「儂もなぁ、ナルトを嫁に出すのは少々寂しい思いがしておったのじゃ、それならば問題は無い」
「……耄碌したのか、じっちゃん……有りすぎるだろ」
 しかも、嫁ってなんだ。
「何々、性別など些細な事じゃ」
「いや、根本的なことだし」
「ナルト、細かいことに拘っては大物は捕まえられぬぞ」
「別に捕まえなくていいし」
 はぁと深く息を吐き出したナルトはぽつり、と落とした。
「・・・何だか、あいつと居ると調子が狂うんだ……」
「嫌っておるのか?」
「別に嫌いってわけじゃ……それだったらさっさと殺してるし」
 三代目は黙ってナルトを見ている。
「イタチはさ、無駄なこと言わねーし、実力もある。察しもいいから任務もしやすい。演技力でちょっと 難ありだけど、ほとんど文句のつけようが無い相手だ」
 ナルトがここまで誰かのことを褒めることは、滅多に無い。
「だけどさ、俺に対するときだけどうしてあれほど『変』なんだ?」
「『変』のぅ」
 くっくっくと三代目が愉快そうに笑い出した。
「何?」
「それは『変』では無く、『特別』と言うのじゃよ」
「は?」
「イタチにとって、お前は他の誰よりも『特別』な存在なのじゃろうて。イタチも不器用な男だからのぅ 少々箍が外れておるのじゃろう」
「少々、ね……」
 素直に喜べないらしいナルトは、茶をすすり、庭へと目をやった……。

「!?」
「何じゃ?」
 驚愕に目を見開いたナルトに三代目も同じ方向に視線を流す。

「……明けましておめでとうございます」
 松の盆栽を携えたイタチが立っていた。
















 縁側には三人の背中が並ぶ。
 一番小さなナルトを真ん中にして、右に三代目、左にイタチ。
 それぞれに湯のみを抱えて、ぼんやりと庭に視線を注ぐ。

「て、和んでんじゃねぇよっ!」
 勢いよく立ち上がったナルトにイタチがどうした?と言うふうに首をかしげた。
「何でこんなとこに居る!?」
「年始の挨拶に……」
「それはわざわざすまぬの・・・どれ」
 松の盆栽に手を伸ばそうとした三代目に、イタチが静かに違いますと告げた。
「違う?」
「これはナルトへのお土産です」
「……」
「つまり何じゃ、お主は儂ではなく、ナルトに年始の挨拶に来たというのじゃな」
 イタチが頷いた。
「ナルト」
 盆栽がナルトの目の前に差し出された。
「……」
「ナルト」
「っわかったよ、受け取ってやるよ」
 イタチの口元が僅かにほころんだ。
「何じゃ、仲良うしておるではないか」
「じっちゃん!」
「はい、おかげさまで。ありがとうございます」
「イタチッ!」
「夫婦喧嘩は犬も食わぬぞ」
「~~~~っ!!もういいっ!」
 怒り心頭に達したらしいナルトは、ぷいっと顔を二人から背けた。


 だから、わからなかった。
 三代目が、愛しそうに目を細め、そんなナルトを見ていたことを。