纏わるモノ
思えば、その頃から気に喰わなかった。
あまり里をうろつくことの無いナルトがちょっとした気まぐれでのぞいたイタチの家。
写輪眼をその血に伝える名家”うちは”。
代々突出した力で里を支えるエリートと呼ばれる一族。その血に繋がるというだけで写輪眼も
顕現できないくせに威張り散らす輩も多い。
いつだったか、チームを組んでの暗部任務にそんなのがどこからか一人紛れこんでいて、ろくに
力も無いくせに、リーダーさながらあれやこれやと口を挟み、周りの誰もが心の中で”戦力外”と
判断を下していたそいつは、戦闘突入後、案の定、悲鳴をあげて一目散に逃げ出した。
もとより数にはいれていない人間が逃げようが死のうがさしたる変化は任務には無かったが、
後日、その男はうちは当主の名のもとに、忍の資格なしと力を封じて追放された、と聞いた。
要は厄介払いがしたかったのだろう。任務中に死亡してくれればそのほうが手間は省けたの
だろうが、男は逃げ出し死を免れた。
こんなとるに足らぬ男も居れば、イタチのように幼い頃から頭角を現す奴も居る。
ただし、イタチの性格がまともかと言えば、多いに疑うべきだろうが、あの顔で誤魔化しているに
違いない。玉石混交。全てがエリートというわけにはいかない、”うちは”と言えど。
「兄さん!相手してくれる約束だろっ!」
幼い声がナルトの耳に届いた。
「許せ、サスケ。また今度」
「また、ていっつもそうやって言うだけで全然相手してくれない」
「……サスケ」
どうやら噂に聞いていた弟らしい……兄弟喧嘩とは面白い。
ナルトはイタズラ心を起こし、青年姿に変化すると二人に近づいていった。
「イタチ」
突然現れたナルトにサスケばかりでなく、イタチも僅かに動揺の気配をのぞかせた。
「へぇ、そっちがお前の自慢の弟クン?」
実のところ、イタチの口からサスケの話など聞いたことなど無いのだが。
「……サスケ、だ」
「サスケ、いい名前だな。俺はタオ=ルン。イタチの同僚だ」
笑顔つきで言ってやれば不審そうな顔をしていたサスケが顔に朱を立ち上らせた。
タオ=ルンとして表に顔を出すことはほとんど無いナルトだったが、サスケのような反応には慣れて
いて、さしたる感動も沸かない。己の容姿が相手にどんな印象を与えるのか計算した上での変化
の術なのだから。
「こんな所まで、どうした?」
サスケとの会話を遮るようにイタチが尋ねてくる。
「さ・ん・ぽ」
わざと一言ずつ、区切るようにナルトは言った。
「……」
「イタチも暇なら一緒にまわるか?……サスケもくる?」
話をふられて、傍観していたサスケがうろたえる。
「……」
普段のイタチなら何の迷いもなく頷いていたことだろうが、悲しいかな。イタチには火影直々の
任務が入っていた。ドタキャンしてもいいのだが、火影はナルトの親も同然。イタチにとっては
舅ともいえる存在だ……。
「無理みたいだな、……じゃな!」
軽く手をあげると、ナルトは姿を消した。
「ナルト、待て」
そのナルトを追いかけ、行く手をふさいだのはイタチだった。
「何か用?お前、任務入ってただろ。さっさと行け」
「……。悪かった」
「は?」
「すまない」
「はぁぁ???」
いったいイタチは何を謝っているのか、ナルトにはまるでわからなかった。
不審と疑問の浮んだ顔でナルトがイタチを見ると、相変わらずの無表情ではあったが、何か酷く
後悔しているらしい……気配が、する。
「結婚したというのに」
「誰がだっ!俺は認めてないからなっ!」
一息に抗議したナルトは、珍しく本気で声を張り上げる。
「私の妻だというのに、まだ、家族に紹介していなかった」
「いや、しなくていいから」
「夫として失格だ」
「……」
最初のころ、からかわれているのかとナルトは思っていたのだが、イタチはどこまでも本気で
言っているらしいことに気づき、頭を痛めている。
「誰が妻で誰が夫とかは、置いておくとして……俺は、『うちは』になるつもりは無い。だから紹介なんてする必要も無い」
「では、何故・・・君は怒ったんだ?」
「あんたが、未だに結婚がどうのと言うからだ」
「違う。その前だ。弟の、サスケの顔を見て……」
「……」
「私の気のせいだったか?」
「……気のせい、だろ」
応えたナルトの声は掠れていた。
サスケの顔を見て怒る……そのイタチの言葉が何故か強い衝撃となって、響いた。
サスケの顔を見て苛立った?
……いや、違う。
サスケに構うイタチに、苛立った……?
「……馬鹿、な」
「ナルト?」
ナルトはイタチに背を向けると今度こそ本気で駆けだした。
(馬鹿な馬鹿な……そんなことが、あるはずがっ)
必死で否定しながらも、ナルトの理性は冷静に判断を下している。
その判断が至極妥当なものだと。
サスケに構うイタチに苛立つなど。
それは。
まるで。
『嫉妬』では無いか。