整うモノ
うずまきナルト、当年5歳。
里の人々に迫害される裏ですでに暗部として活躍している類稀なる才能を宿すその器。
そんな彼が最近、身近に不穏なものを感じ、警戒していた。
(おかしい。火影のじじぃ……俺に何か隠してやがるな)
暗部の任務を受けるとき、いつもの様子を装っているが、出来るだけナルトの目を合わせないように
している。そして。
最近パートナーを組むことが多いイタチが無表情で浮かれている。
何故それでわかるのかといえば、チャクラが……桃色なのだ。
普段イタチのチャクラは濃い紫色。それがこんな明るい阿呆な色になるのはかなりのことがあったに
違いない。……怪しい。限りなく怪しい。
自分に関係なければ、放置しておけばいいのだが、この二人が揃っていてナルトに関係ないなどまずありえない。
疑惑を強めるナルト。その疑惑はまさに当たっていた。
ナルトの知らぬ水面下で火影とイタチの計画は着々と進行していたのだった。
+++++++++++++++++
「珍しいな、くの一の任務か」
「うむ」
任務書を火影から受け取り、中を一読したナルトは何気なく呟いた。
「しかも見合い?……わざわざ暗部に依頼するほどのことか?」
「先方はどうしてもこの見合いを成功させたいらしい」
「ふ~ん……」
どうせ依頼先が上得意なのか、多額の寄付を約束しているのか……そのくらいのことだろう。
「……で、俺は姫付きの侍女兼護衛役か……ついでに男も誑かす?」
「いや、その必要は無い。……もうすっかり骨抜きじゃし」
「……は?」
「あ、いやいや!何でも無い……では、しっかりな」
「…………御意」
何か妙なひっかかりを覚えたが、頷いた。
変化で女性になったナルトは木の葉のある大名の屋敷で依頼人である姫が姿を現すのを待っていた。
何枚も単を重ねた服に着替えさせられたナルトは、凛として美しく、空気さえ輝いて見えた。
だが、その美しきナルトは・・・
「……まだかよ」
なかなか現れない姫にしびれをきらそうとしていた。
この座敷に通され、待つこと1時間。ナルト自身は指定された時間丁度にやってきたはずなのに。
いくら姫君の支度に手間がかかるとはいえ、かかりすぎだろう。
暇つぶしに屋敷の探索でもするか、と立ち上がりかけたナルトの耳に大勢の衣擦れの音がこちらに
向かっているのが届いた。
(ようやくお出ましか……さて、どんな姫君が現れるのやら……)
ナルトは今までの不機嫌な顔を瞬時に隠し、見惚れるような微笑を浮かべた。
「姫様のおなりでございます~」
先導の侍女が厳かに告げ、扉を開いた。
ナルトは下座に頭を下げ、上座へと移動する気配を追う。
「面をあげよ」
「……」
(………………は?)
言われた通り、顔を上げたナルトは・・・一瞬我を忘れた。
(え……えぇっ!?これが……姫ぇぇっ!?)
侍女に囲まれ、一段高い場所に座す”姫”とやらはどう、フィルターをかけて見ても確実に50は超えて
いる。三十路どころの話ではない。
(……お見合い?これが見合い?俺、担がれてんのか……??)
微笑を浮かべた裏で、ナルトは頭を悩ませる。
暗部として依頼を受けた以上、裏づけは必ずとっているはずなのだが、ナルトは本気で疑った。
「此度は、妾の依頼を受けていただき礼を申します。では、早速見合いの場所へ参りましょう」
「……」
一時間も人を待たせる相手だからして、長々と挨拶があるのかと思えば早速にとくる。
そんなに急ぎならば、人を待たせるな、と心の中で悪態をついたナルトは姫と侍女たちに続いて
見合いが行われるらしい部屋へと異動した。
その間、見合いを邪魔すると思われる気配を探るが何も感じられない。
(妙だな……)
殺気ならばどんな微弱なものでもナルトの探索から逃れることは出来ない。
それが一切感じられないというのは・・・・・。
「失礼いたします」
どうやら予定の部屋へ到着したらしく、侍女が扉を引いた。
ナルトは何があってもいいようにと、姫(……50過ぎだが)の近くに侍り周囲を警戒する。
「お相手はまだのようですね」
「そのようですね」
(ドタキャンされたんじゃ……?)
姫と侍女の会話を聞きながら、ナルトは密かにつっこむ。
見合いというから、相手は絶対に年若い女性だと思うだろう……が、これではほとんど詐欺だ。
途中でバレて相手が逃げたとしても、責められはできない……と思う。
もっとも……先方は”これ”が”姫”であることを先刻承知ならば、言うことは無いが。
「そなた、名を何と申されたかのう?」
いきなり姫がナルトへ語りかけてきた。
「……タオ=ルンと申します」
会釈程度に頭を下げると、両脇に垂らしていた艶やかな黒髪がさらさらと流れる。
そんなナルトの様子を慈しむような眼差しでみやった姫は、すっとナルトの目の前に白い手を差し出した。
「……?」
「手を」
「……は?」
意味がわからず、ナルトは首を傾げた。
そんなナルトに構わず、姫は強引にナルトの手をとった。
「参りましょうか」
「……??」
(……なんで俺が導かれなくちゃいけないんだよ)
「こちらにお座り下さい」
「え……いや……俺が?」
侍女がこくり、と頷く。
侍女に座るように言われたのは……見合いの主役が座るはずの席、だったりする。
(……マズイんじゃ……?????)
隣に居る姫を困惑した表情で見上げると・・・・・・・何故か力強く頷かれた。
(……??????)
ますます混乱するナルト。
だが、それも相手が登場するまでのことだった。
「・・・失礼します。少々遅れてしまったようですね」
ナルトは現れた人物に目を剥いた。
――――――― イタチ、だった。
++++++++++++++++++++++
「どういうことか、説明してもらおうか……?」
ナルトのイタチのかける声はどこまでも低く、ドスがきいていた。
「どういうことも何も、見ての通り。私とナルトのお見合いだ」
「……。……ふざけるな」
「ふざけてなどいない」
ナルトの周囲にブリザードが吹き荒れる。恐らく、温度計で測ればそこだけ零下だろう。
とても和気藹々とした雰囲気とはいえないが、姫以下、侍女たちは『後は若い方たちにお任せしましょう』
という決まり文句を置いて、さっさと姿を消した。
「これまで考えてみたところ、どうやら私は性急すぎたらしい」
「……。……何が」
「すでに夫婦となった私たちだが」
「認めてねぇっ!」
だんっと机を叩いてナルトは否定する。たちの悪い冗談だろうと思われた『籍は入れた』というイタチの
言葉はどこまでも真実であることは、里が管理している戸籍謄本のナルトの氏名が『うちはナルト』と
なっていることが証明していた。
即座に破り捨てて証拠隠滅を図ろうとしたナルトだったが、火影が何やらガードをかけているらしく、
どんな術も効き目が無い……ナルトも諦めるつもりは無いが。
「ナルト、照れているのか?」
「誰がだっ!!」
最近特に思うことながら、イタチと話しているとナルトの血管はぶち切れそうになる。
「しかしながら、私はあることに気づいたんだ」
「……何に、だ?」
やっと自分の馬鹿さかげんに気づいたとかいう話か。
「恋愛はステップを踏まなければならないということに」
「……。……。…………」
「出会い、触れ合い……そして、ゴールイン」
「……全然、段階踏んでねーじゃねぇか」
途中が思いっきり省略されている。
「そういうわけで、お見合いをセッティングしてみた」
「どうしてそこで”そういうわけ”に繋がるのか訳わからねぇな……」
「大丈夫、問題ない」
「ありまくりだろっ!」
頭痛がナルトを襲う。
「ああ、仲人はもちろんのこと、結納や式の日取りについても三代目におまかせしている」
「………………誰の?」
「もちろん、私とナルトしか居ないだろう?」
「……。……じじぃ…………コロス」
殺気を超えた、瘴気をゆらめかせながらナルトは立ち上がる。
そして、たちまちのうちに姿を消した。
「さて、式はやはり神前か・・・それとも・・・・」
イタチはパンフレットを並べて考えはじめる。無表情なわりに、かなり幸せそうだ。
果たして、火影の命は!?
ナルトの(将来の)運命はっ!?