貢ぎモノ


「お届けものでーすっ!」
「何だってばよ?」
 判を押して威勢のいい兄ちゃんから小包を受け取ったナルトは首をかしげた。
 自分に何かを送ってくる相手は決まっている、案の定差出人は火影。筆跡も間違いないし、ナルト専用 の徴もあるので偽ものでは無さそうだ。
 何でわざわざ小包などにして送ってきたのか疑問が残るが、ナルトはとりあえず開けてみることにした。
 
「……巻物?」
 中に入っていたのは一本の古びた巻物だった。
「ん?・・・その壱、煮物の作り方。その弐、魚の上手な焼き方……。……は?」
 その巻物には延々と料理の方法が書き連ねられていた。
 こんなものを送ってくる意図が全くわからない。
 ナルトは思いっきり首をかしげた。






「……で、アレは何だったわけ?」
 任務のついでに火影の元へ顔を出したナルトは早速届けられた巻物について問いただした。
「うむ、実はある奴からお前に渡して欲しいと頼まれてな」
「……レシピ集を?俺に?」
「そうじゃ。あの巻物はそ奴の家に代々伝えられてきている由緒正しい巻物だそうじゃ」
「アレが?……冗談」
 ナルトの顔がますます不可解に歪む。
 あんなモノにわざわざ伝えられる価値があるとは到底思えない。
「いや、真じゃ。あれはそ奴の家の当主の妻に送られる貴重な巻物じゃ」
「ちょっと待て」
 今、火影は聞き捨てならないことを言わなかっただろうか?
「何だ、”妻”て、妻って!」
「あ、いや……何、いわゆるあの巻物は”結納品”なのだそうじゃ」
「はぁっ!?」
「はっはっは、親代わりである儂に是非仲人になってもらいたいと言われてのぅ。うむ、めでたいことゆえ 儂も嬉しくてついつい承諾してしまったというわけじゃ」
「するなっ!」
 どうもナルトの知らないところで妙な事態になっているらしい。
「だいたい、俺は男で……今は変化してるが、まだ5歳だぞ!」
「先方もそのことは承知している」
「すんなっ!」
「そう冷たいことを言うでない、儂は悲しいぞ、ナルト」
「そういう問題じゃねぇだろっ!だいたい、誰なんだ?そんなふざけたことを言い出しのは?」
 即刻、抹殺に行ってやろうと決意したナルトに火影はにこにことその名を告げた。













「おい、これ。返すぞ」
 任務で一緒になった男にナルトは、昼間火影から受け取った巻物をつき返した。
「何故?」
 ナルトから巻物を受け取ったイタチ。そう、巻物を送った相手はイタチだったのだ。
「いや、何故も何も……俺には必要無いだろ」
「つまりは私の求婚には応じられないと?」
当然だろっ!俺を何だと思ってんだ?」
「うずまきナルト。私の愛する人」
「……。……」
 ナルトの全身に鳥肌が立った。未だかつてこれほど気持ちの悪いセリフがあっただろうか。
「私の何が駄目なんだい?自分で言うのもなんだが、家柄も実力も誰に勝るとも劣らないという自負が ある。これ以上買い得な男もそうは居ないと思うが……」
「いや、そこまで自分のこと言えるのはある意味凄いけどな……大きな問題があるだろうが」
「……何かな?」
 本当にわかっていないのか、イタチは無表情で首を傾げた。
「俺は男だ」
「ああ。そんなことはわかっている。問題ない」
「あるだろっ!」
 怒るナルトのこめかみに血管が浮かぶ。
 どうして火影といい、イタチといい……ナルトでさえわかるような常識がわからないのか。
 それともナルトの”男は男とは結婚できない”という常識は世間では”常識”ではないのか。
 5歳で暗部に在籍しているナルトに一般常識の欠如は多少あるとはいえ……。
「ナルト」
「……何だ?」
 不機嫌にかえす。
「考えてみてもらいたい。この私が誰かを大切に思ったり、愛したりなどすると思うかい?」
「……。……」
 ナルトは想像してみた。
 ……不可能だ。想像さえ出来ない。
「無いな」
「そう。私も自分でそう思っていた。だが、ナルト……君という人を見つけて私は誰かを愛するという事を 知った。そしてこれからナルト以上に誰かを大切に思うことは無いだろう」
「いや、人生長いし……全く可能性が無いとは……」
 不穏な方向に向かおうとしてる話にナルトは抵抗を試みた。
 しかし、それはイタチにあっさりと無視される。
「ナルト、それほどに君は私にとって特別な存在なのだ。この機会を逃せば私は誰とも添い遂げること なく人生を終えるだろう……それはあまりに寂しいと思わないか?」
「全く、全然。これっぽっちも」
「そうだろう、思うだろう」
「……。……」
 完全に自分の世界にいってしまったイタチにはナルトの言葉は届かない。
「そういうわけで、私は君に求婚したわけだ。その前に親代わりである火影にもナルトを妻にしたいと 伝えたところ快く了承を得た。何も問題は無い」
「……俺の意思は?」
「少なくとも私を嫌ってはいないだろう?」
「……。……」
 ナルトは思いっきり顔をしかめた。痛いところを衝かれた。
「もちろん、君がまだ幼くて婚姻を結ぶには早すぎるということもわかっているが……ライバルはこれから 益々増えそうだからね、早めに既成事実を作っておこうと思ったんだ」
「おい」
「これで安心して任務に集中できる」
「こら待て」
「何か問題が?」
「だからっ!……もう、いい」
 たぶん、ナルトが何を言ってもイタチには通用しない。
 ここはさっさと任務を終わらせて、相手にしないに限る。
「ああ、ナルト」
「何?」
「婚姻届は出しておいたよ」
ちょっと待てっ!
「さぁ、任務に行こう」


「おいっ!!」





 果たしてナルトの運命は!?(笑)