交わるモノ


(はぁ……俺も大概我慢強いよなぁ)
 集団に殴られ蹴られ、寄ってたかって暴行を受けながらナルトは諦めたようにそう思った。
 
 (だいたいこいつら、人目があるところじゃ無視するだけのくせしてさ……こうやって森の中なんかの 隠れたところじゃ好き勝手しやがるよな……バレてないとでも思ってるわけ?それともこんなガキじゃ 告げ口したってたかがしれてるって?馬鹿にされたもんだよな。それはさ、俺はガキだよ。まだ 4年しか生きてねーし?だけど俺ってお前らより数段強いんだけどな……)


「この化け物がっ!」
「お前なんかっ死ねばいいんだっ!」
「俺の家族返せっ!」

 (だーかーらー、それを俺に言うにはおかど違いなんだって。あんたらの知人?肉親?そういうのを 殺したのは九尾であって、俺じゃないんだって。まったく、いい加減わかれよな)

 急所に入りそうになる攻撃を巧みによける。
 傷は受けたはしから九尾の能力により治癒しするが、受けた痛みを消すことは出来ない。
 ましてや体格からして大人と子供……正常な人間ならば行うことなどできようもない酷い行為も ナルトに対するときだけは周りは常に目をつむる。

 (ああ……でもマジ、キレそう……三日連ちゃんでこられちゃ俺も嫌になる……)

 こいつら殺したら火影のじっちゃんにやっぱ叱られるよな~、死体の始末どうしようかな~と、具体的な 案まで練り始めたナルトの忍耐は限界に近づいていた。


「何をしている」
 だが、突然に割って入った声に大人たちがぎくり、と動きを止めた。
 ナルトも頭をかばうようにしていた腕の間から声の人物を確認する。

 ……少年だった。

「何をしていた?」
 だが、少年だと侮ることの許されない雰囲気がその少年にはあった。
 大人たちも、あうぅ……と意味不明な言葉しか漏らせず少年から少しでも離れようと後ずさりをしている。
「聞いている、何を、していた?」
「あ……あぅ」
「あの……」
 大人たちは情けなくも脱兎の如く逃げ出した。



 残されたのはナルトと未知なる少年。

「大丈夫かい?」
 先ほど大人たちにかけた声とは全く違う、穏やかな声でナルトに手を貸し、立ち上がらせた。
 そのまま服の埃をとり、ナルトの顔の汚れを拭う。
「怪我は無かったかい?」
「……」
 (いや、怪我だらけだったんだけどさ。もう治ったし……だいたい、こいつ何者……俺のこと知らないわけ じゃねえだろーし)
 ナルトのことを化け物だと忌避しない存在に、自然と眉がひそめられる。
「大丈夫、心配しないで。私は君の味方だ」
 少年はナルトを安心させようと、にこりと笑顔を浮かべてみせた。

 (うわー、嘘くさ~……)
 だが、それもナルトにとっては何か企んでいるようにしか思えない。

「家はわかるかな?一人で帰れる?」
 とりあえず、ナルトはうなずくにとどめた。
「そうかい?だったら気をつけてお帰り」
 少年はそれだけ言うと立ち去ろうとする。

「あ!……」
「ん?」
「あの……な、名前は?」
 
 (誰だか確認しとかないと気になって仕方がない……)

 そう思って尋ねたナルトに何を勘違いしたか、少年は笑顔を浮かべてこう言った。


「いや、名乗るほどの者では無いよ」


 (……っ!!!何だ、そのこてこてのセリフはーーーっ!!)
「……」
 あまりのセオリー通りの展開にナルトは言葉を失う。
 その間にも少年は背を向けて去っていく。
 
「……っ」

 ナルトはその場にうずくまった。
 そして震えだす。








 ……――――声も出せないほどに爆笑していた。








 その後、少年の正体は『うちはイタチ』であると判明する。
 何故ならば、去り行く少年が着ていた服の背には”うちは”のマークがくっきり描かれていたからだ。