匂い立つ高雅なる華 2
ナルトは隊を三つに分けた。
中忍一人に下忍二人。
「待機してる連中を片付けてきてくれ」
中忍二人に指示を出す。
「殺害するか否かはそれぞれに判断に任せる。遂行後は速やかに戻ってくること。その間にこちらも見張りを片付けておく」
ナルトの言葉に頷くと二隊はすぐに姿を消した。
ナルトたちも滝周辺を見張っている忍たちを確認して行動に移る。
『サガン、右を』
合図にサガンは姿を消す。
『オチバ、左を』
今回の下忍で紅一点のオチバも頷き姿を消した。
それを見送り、ナルトは自身の分担分である3人の霧忍に特攻をかける。
一人目は恐らく、何が起こったかもわからないままに首の急所をつかれて地に伏した。その音に反応した二人のうち一人を螺旋丸で弾き飛ばす。
「 動くな」
残った一人にクナイをつきつけ、低い声で命令すれば・・・霧忍の動きが止まる。
神速の動きで忍の後ろをとったナルトは続ける。
「下手な真似をするな。術を使えばそれに反応してチャクラの糸がお前の体を木っ端微塵にする」
「・・・っ」
ナルトが操る不可視のチャクラが忍の体を拘束し、僅かな動きも許さない。
行動を開始して僅か5秒の出来事だった。
無事に"片付け”を終えて戻ってきた忍たちがナルトの傍らに座りこんでいる霧忍に目を見開いた。
「動きは封じてある。この滝に関して聞き出す捕虜が必要だったからな」
ナルトの言葉に空気を和らげた忍たちに対して、霧忍はぎくりと躯を固くした。
自分で何かがあると宣言しているも同然だ。
大層な封印符を使用している割に、護衛の忍の質は低い。
余程封印に自信があるのか、それとも・・・封印された『モノ』が強力すぎて護衛する必要さえ無い、手に余るものなのか・・・後者の予感をひしひしと感じる。
「・・・その忍を問い詰めるよりも先にさっさと水を汲んで撤収したほうが早いのでは?」
尋問の必要性があるとは思えないと中忍の一人が口を出す。
ナルトは静かに目を瞬かせ、その中忍を静かに見据えた。深い青の瞳には一点の濁りも無く、小波の一つも無い。引き込まれそうに深い、底の見えない青さが見た者の動きを止める。
「お前がどんな指示を受けたかは知らない。だが、隊長はオレだ。必要であると判断したことをやらずに仲間を失うことなどしたくは無い。 封印符の他に、この滝には結界が張られている。外界からの接触を防ぐだけでなく、・・・中の”モノ”に外界に出るのを防いでいるのだろう?」
後半は拘束された霧忍に向けられたものだった。
「結界?」
そんなものがあるとは全く気づかなかったのか、ナルトと霧忍を除く連中がぽかんとした顔をしているのに、ナルトは無造作に片手でクナイを滝へと放り投げた。
バチッ!と音をさせて、クナイは弾かれ地面に転がり落ちる。
「命を奪うほどきつい威力のある結界では無いが、意識は失うだろう。解くのはそう難しくは無い。もう少し強い力で押してやれば反発して・・・」
「やめろっ!」
沈黙を続けていた霧忍が叫んだ。
「そんなことをしてみろっ!お前たちもただじゃっ」
「何が起きる?」
ナルトはゆるりと微笑を浮かべると、続きを促すように男の顎をクナイで辿った。
背後に控えている忍たちをさえ、背筋に痺れを走らせるような艶めかしさ。
こくりと唾を呑んだ男は、戦慄くように唇を震わせた。
「話せ」
命令とは思えぬほどに静かな声。だが、そこには否やを言わせぬ力が含まれていた。
「・・・た、滝には・・・」
「滝には?」
「 ナーガ、が居る」
「ナーガ、だと?」
中忍の一人が、嘲笑うように吐き出した。
「霧忍のくせに神頼みか?」
ナーガ、という言葉は一般的な知識では蛇の姿をした神ということになっている。
それを揶揄したのだ。
ぎりりっと霧忍が睨みつけてくる。
「 なるほど」
『は?』
ナルトの合点がいった、という頷きに忍たちは疑問を抱く。
何が『なるほど』だというのか。
その形の良い唇に笑みさえのぼらせて・・・
「成分というのは、つまり・・『それ』か」
笑んでいても、ぞくりと背筋があわ立つようなアイスブルーの瞳に見下ろされて霧忍の顔色が蒼白となる。彼はナルトが『ドベ』と呼ばれる落ち零れであったことなど知らない。
ただ目の前に在る圧倒的な力に畏怖を抱くのみだ。
「隊長、いったいどういうことですか?」
理解しかねると下忍に一人が、ナルトを伺う。
「水そのものに、特別なものは無い。こいつらが『ナーガ』と呼ぶ存在が水の中で作り出すもの、又はその存在そのものが、成分なんだ。だからこそ、こいつらは極秘扱いにしていたんだ。いくらなんでもそんなものが成分だとバレては、効用が高くても誰も買いはしないからな」
現実に、蛇の神など居はしない。
大蛇丸が操るような肥大化した蛇か、又は妖獣の類に違いない。
「そんなものを持ち帰るのは不可能です」
「だが、成分が溶け出しているという水を持ち帰るのは可能では?」
「いや、そんな得たいの知れないものを持ち帰っては・・・」
口々にしゃべりだした忍たちを、ナルトは軽く腕を上げることで制した。
任務当初は、ナルトに半信半疑でついてきた忍たちがいつの間にかナルトの命令を受け入れることに違和感を感じなくなっている。
「そのナーガとやらを持ち帰るにも水を持ち帰るにも、どちらにしろこの結界を解かなければどうしようも無い。この結界を解くのは容易い。先ほどオレが言ったように同等がそれ以上の力をぶつけて相殺してやればいい。問題はその後だ。霧忍が封印を施してまで外界へ出さないようにしていたものが大人しくオレたちが水を汲むのを見守るとは到底思えない。・・・さて、お前たちはいったいどうやって『ナーガ』とやらに襲われることなく、水を汲んでいる?」
半眼で視線を投げかけられた霧忍が小刻みに首を振った。
「し・・知らないっ、オレは知らない!オレたちはただ、見張りを命令されただけで・・っ水を汲むのはいつも違う人間が来て・・っ」
脅してもいないのに、霧忍は滑らかに口をすべらせる。
何もされていなくとも、目の前に在る存在が寒気に襲われるほどに恐ろしいのだ。
見目は、『ナーガ』という化け物に比ぶべくなく美しい。アイスブルーの瞳は冷たく冴え渡り、木の葉の額当てで抑えられた金色の髪は濁りなく、時節光を反射して輝いている。
魅入られる。
だが、恐ろしい。
否。
だからこそ、恐ろしい。
自然と震えだす体を押さえきれず、霧忍はナルトから視線を逸らすことも出来ない。
にっと口角を上げた形ばかりの笑みに、眩暈を感じた。
「だとすれば、残る方法は一つ」
ナルトは形のいい指を一本立てた。
「大人しくさせる」
力づくで、な。
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