Never Ending Story 16.各々


 新年の祝いは七日間行われ、日常へ戻っていく。
 祝い気分をすぐさま切り替えるのは難しい。
 つい数時間前まで、人が溢れていたはずの街も城内もしんとして、その静寂は耳に痛いほど。
 
「失礼いたします」
 執務室の扉が開き、ファラミアが入ってきた。
「もうすぐ会議が始まります。お出ましを」
「ああ、わかっている」
 新年始めの会議は、ほとんど儀礼的なもので終わる。
 しかし、だからこそ王の姿が無くば始まらないともいえた。
「……エレスサール王?」
 どこか気もそぞろな王の様子に気づいたファラミアが声をかけた。
 この王に限って新年ボケは無いだろうに。
「いや……少々気にかかることがあってな」
「何でしょう?」
「個人的なことだ……もしかすると肩透かしになるやもしぬし……」
 いつになく歯切れが悪い。
 そのくせ、どこか嬉しそうでもある。
「レゴラスはどうしている?」
「は?……彼ならば、ギムリと共に街へ出て行くのを見かけましたが……しばらくこちらに滞在されるのですか?」
「どうやらそうらしい」
 そのことと王の様子は何か関連があるのだろうか。
「気にするな、そう悪いことではないから……おそらく」
「はぁ」
 納得しかねるファラミアだったが、王が立ち上がったために話はそこで打ち切られた。







「レゴラス、お前いったい今度は何を狙っている?」
 まばらな人の流れを避けながらレゴラスと街を歩いていたギムリが見上げてきた。
 その視線をレゴラスは故意に無視して、歩いていく。
 新年の祝いが終わればまた旅に出かけるとばかり思っていたエルフは何を思ったか……企んでいるのか、
 今朝急にしばらくミナス・ティリスに滞在することをギムリに告げたのだ。
「好戦的なエルフほど性質の悪いものは無い」
 ふんと鼻をならしたギムリに、レゴラスがあははと笑った。
「そう……とても貴重な生き物だ。もし居るとすればね」
「訳がわからん。まぁせいぜい頑張ることだな」
「もちろん。逃す気は無いよ」
 くつくつと笑う姿は、本当に楽しそうでここしばらく見ていなかった顔だ。
 どこまでも自信満々、傲岸不遜なエルフも20年前……彼が旅立ってから、どこか寂しげな様子があった。
 彼をしても、指輪所持者のホビットは何にも勝る存在であったらしい。
 その貴重な生き物とやらに僅かに哀れを感じつつも、友の楽しそうな姿にギムリもまた満足だった。








「―――どうしても、誓いを果たしたいのです」
 そよ風にさえ吹き飛ばされそうな華奢な風に反して、彼の瞳には強い輝きがあった。
「我が儘だと言うことは重々承知しています……でも、お願いです!このままでは、私は果たされぬ誓いという 傷を負ったまま、ずっと生きていくことになるでしょう。―――いえ、きっとそれもただの言い訳」
 彼の瞳から涙が美しい宝石となって、零れ落ちた。
「―――会いたいのです。ただ、会いたい」
 震える言葉に、多くの想いが詰め込まれている。

 しばらくの沈黙の後、深い溜息が吐き出された。

「姿が、変わるやもしれぬぞ」
「構いません」
「気づかれぬかもしれぬ」
「……元気な姿を、そしてほんの少しの言葉を、置いてこられればいいのです」
 再び吐かれた吐息には、諦めの色が混じっていた。

「―――頑固ものじゃな」

「ごめんなさい」




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