Punishment


「・・・と本日の予定はなっております。よろしいでしょうか?」
「昼食会ねぇ・・おっさんと顔合わせて喰ってもマズイだけだろ?ね、ハルナさん、せっかくだから昼食は君と二人で・・・」
「それから、お客様がいらしています。お会いになりますか?」
 朝から口説きモードに入ろうとするシーナを秘書であるハルナは完全に無視する。
「男?女?」
「男性です・・・が」
「んじゃ、会わない」
 30も後半に入りながら子供のような駄々をこねるシーナにハルナはいつも苦労させられている。周囲の仲間などは、少々浮ついているもののカッコイイと評される容姿と、大統領の息子であるシーナの秘書であることを羨ましがる。
 だが、代われるものなら代わってやりたいというのがハルナの本心だった。
 だいたいシーナの秘書などあの人に頼まれなければ誰がやるものか。

「本当に、お会いにならなくてよろしいのですか?」
「男はね。会っても面白くない」
 そんな理由で断るなど相手に対して失礼ではないかと思うが、この根っからの女好きはことあるごとにそうして我侭を言う。
「そうですが、ご友人だと仰られていたのですが・・・」
「ん、友人?」
 今の立場になってから自称『友人』を名乗る相手は多くなった。 「ええ、私も何か勘違いされているのではないかと何度も確認させていただいたのですがまだ年端もいかない少年・・・」
「っ何!?」
 ハルナの言葉にシーナが顔色を変えた。
 かなり珍しい反応だ。
 そのシーナがふと入り口の扉に目をむけ・・・固まった。
 つられてハルナもそちらを向く。

「やぁ、シーナ」
 たぶん、街を歩けば十人中十人がその容姿に目を止めるだろうという綺麗な少年が軽く手を振っていた。

「だ・・・・・・・ダナっ!?」
 ガターンッ!と椅子を倒して立ち上がったシーナは、目にも留まらぬ速さでハルナの 脇を通りぬけ、ダナと呼んだ少年の前に移動すると前代未聞の暴挙に及んだ。
















「全く、変わらないんだから」
 いきなり抱きついてきたシーナを笑顔のまま棍で打ち据えるとダナはハルナにすすめられて応接室のソファに座り、優雅に紅茶を口に含んだ。
「お前が薄情なのが悪いんだろうが・・・何年ぶりに会うと思ってんだ?」
 床と仲良くしていたシーナが復活を果たしてダナの向かいに座った。
「そうだね・・・君たちの結婚式以来だから十年くらいかな?」
「それは嫌味かよ」
「くすっそう思う?彼女と会ったよ・・・グラスランドで」
グラスランドっ!?・・・それはまた遠くへ行ったもんだな」
「うん、また宿星に入ってた」
「またかよ・・・」
「しかも副軍師」
「あいつも苦労するな。どうせ軍師はまたシルバーバーグ関係なんだろ?」
「うん、レオンの孫だって。あの家系も戦好きだよね」
 朗らかに笑われてシーナは困る。
 頷くべきか否定してやるべきか・・・
「彼女、とっっても元気にしてたよ。・・・とても×1には見えなかったね」
「・・・・・・」
 笑顔でぐさぐさと人の痛いところを突き刺してえぐり取るダナにシーナの顔がひきつる。見た目16歳の少年に30過ぎたオヤジがやり込められるというのは傍目には奇妙な光景である。
「さすがの僕も離婚したなんて知らなかったから驚いたよ。まぁ、彼女は全然気にしてないみたいだし」
「お前・・・実は相当怒ってるだろう?」
「そう?シーナが罪悪感持ってるからそう思うんじゃない?」
「俺が悪うございました・・・・」
 この世には絶対に怒らせてはいけない人間というのが居る。
 はっきり言って目の前のダナはその最たるものと言えるだろう。
「僕に言われてもね・・・」
 にこやかに笑い続けるあたりが寒気がするほど恐ろしい。
 父親のように怒鳴られたほうがどれだけ気が楽か。

「僕はね、彼女に・・・・幸せにね、なって貰いたかったんだけど」
 何やらダナの背後に黒いものが見えるというのは気のせいか。
 すでにシーナの腰がひけている。

「覚えてるかな?結婚式のとき、言ったよね・・・」
「・・・・・・・・・」
 ダナはシーナににこりとそれはそれは綺麗な笑顔をみせた。






「泣かせたら許さないよ、て」


 シーナは天を仰いで神に祈りたい気分だった。





















「さてと、この辺でいいかな?……泣いてなかったし」
 泣いてなかったのかよ……
 ダナからソウルイーターの洗礼を受けたシーナは半分棺おけに足を突っ込みつつも見事に耐え抜いた。
 そしてダナは持っていた袋から何やら取り出すとシーナの執務机の上に置いた。
 ゴトリ、という音からしてかなりの重量がありそうだ。
 いったい何かと覗き込んだシーナは、その瞬間後悔した。

 そこにあったのは 『呪い人形』

「僕のコレクションの一つなんだけど」
 そんなもんコレクションするなよな、と突っ込む気力も今のシーナには無い。
「中をジュッポに改造して貰ったんだ」
「・・・中を?」
「うん」
 ダナはご機嫌でその人形をしっかりとしっかりと、固定している。
 からくり仕掛けで動く、というわけでは無いらしい。
「凄いよ~、ジュッポが自分で一世一代の大発明だって言ってたから」
「・・・・・・」
 シーナは悪い予感が否が応にも増していくのを感じた。
「ちょっと椅子に座ってみてくれる?」
「・・・・・・・・」
 ダナの笑顔に拒否できない圧力をかけられ、生死をかけてシーナは椅子につく。
 ・・・・・幸いにして何も起こった様子は無い。
 目の前の呪い人形はオブジェとして飾るにはいささか・・いや、だいぶ不似合いではあるがこのくらいなら我慢できる。

「じゃ、ちょっとさぼってみてよ」
「・・・は?」
 いきなりそんなことを言われても・・・。
 一瞬、とまどったもののシーナは含みある笑いを浮かべるとダナの手を取った。
 そのまま引き寄せ、腕の中へ抱きしめる。

「ダナ、旧交を温め・・・・・っっ!?」
 だが、シーナの言葉が最期まで続けられることは無かった。
 まさにシーナの鼻先に何かがよぎったのだ。
 それは窓のところでカーテンをジュッと焦がしている。

「・・・・・・・。・・・・・・・・(汗)」

「ふふ、面白いでしょ?」
 硬直するシーナから身を放したダナはにこりと笑う。
「い、今のはいったい・・・?」
「レーザー光線♪このね、呪い人形の目のところから出るようになってるんだよ」
「・・・・・・。・・・・・・」
「でもしょっちゅう出てたら困るから、シーナが仕事をさぼろうとした時のリラックス した気分・・・まぁ、脈拍とか発汗とか科学的に言うと色々難しいらしいけど、それを 即座に分析してレーザー光線が発射されるんだよ」
「・・・・・・・。・・・・・・・・・」
 マジですか?
 
「大丈夫。一撃当たったくらいじゃ死なないのは実験済みだし」
「・・・・・・・」
 誰で実験したんだ、いったい・・・・・。

「これでビシバシ、真面目に仕事に励めるね♪」
「・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・」

 天使の皮を被った悪魔がシーナの目の前に居た。
 









 それから数ヶ月、死に物狂いで一生懸命仕事に励むシーナの姿があった。