Dearest


 私の名はグレミオ。今年32になります。
 ・・・本当のところは1年ほど死んでいたので31なんですけどね、1歳くらい サバを読むくらい平気でしょう。
 さて、私は赤月帝国・・・今はトラン共和国と名を変えた国のマクドール家という由緒正しい家で働いております。
 得意なことは料理で特にシチューに関しては素人裸足だとご近所でも評判で・・・え、いえいえそんなことはどうだっていいんです。
 私の仕事はその家の坊ちゃんのお世話・・・マクドール家の旦那様となられた方に坊ちゃんというのはおかしいと思うのですが、昔からの癖というのは恐ろしいもので どうしても坊ちゃんと呼んでしまいます。
 その坊ちゃん、このグレミオが不甲斐ないばかりにとんでもない波乱万丈な人生を 送られることとなり、本当にご苦労なさいました。
 帝国五将軍のお一人であられるテオ=マクドールさまのご子息として順風満帆な 人生を歩まれ、将来は輝くばかりの栄華を極められると誰しもが思い、また望んで いたのでございましたが、ひょうんなことから解放軍のリーダーとなられ数々の 艱難辛苦の末、腐敗しきった帝国に新風を呼び込み、トラン共和国、建国の 大立役者、トランの英雄と呼び名されるようになったのでございます。
 しかし、その戦いで坊ちゃんは多くの大切な方々を失うこととなってしまいました。
 実のお父上であるテオ=マクドール様、ご友人であるテッド君・・・。
 どんなにおつらかったことでしょう。
 私は後でそのことを聞き己を激しく責めたのでございます。
 ・・・え?お前はいなかったのかとお聞きですか?
 それが話すと長いことながら・・・は?短く?まぁ、そう仰らず・・はいはい、わかりましたよ。
 ですから、丁度その頃、私は地獄の三丁目あたりにおりまして・・いえ、ちょっとした アクシデントの折に死んでしまっていたんです。
 嘘つくな?いえ、本当ですって!
 たぶん、ほとんどの方が信じてくださらないかもしれませんが、そんな奇蹟が起こっ たのは全て坊ちゃんのこのグレミオへの愛が・・・っ!
 ああ、本当に坊ちゃんは賢く、たくましく、それでいてお可愛らしくお優しい方なの ですっ!きっと誰に聞いてもそう仰るに違いありませんっ!
 ええ、このずっとお傍で見守っていた私が断言いたしますとも!

 で、話は続きますが、坊ちゃんは戦争が終わった後、トランへ残ることをよしとなさいませんでした。
 無理もありません。
 そうするにはトランはあまりに辛い思いがありすぎたのでしょう。
 最期の戦いの後、戦勝の宴の騒ぎに紛れ、静かにトランへ別れを告げられたのです。
 もちろん!
 この私もご一緒いたしました。
 え?嫌がられなかったのかって?
 確かに最初は坊ちゃんも渋っていらしゃいましたが、昔から坊ちゃんはこのグレミオの 泣き落としには滅法弱くていらっしゃいまして・・・。
 まぁ、そんなわけで従者としてついていくお許しをいただきました。

 それから坊ちゃんと私は各地を転々と放浪したのでございます。
 望めばどんな贅沢さえ出来るはずの坊ちゃんもすっかりサバイバルな生活に慣れ 野宿も何のその、どんどんたくましくなり、このグレミオさえ時にはついていけない、 なんてことを・・・思うわけないじゃありませんか!
 このグレミオ、たとえどんな状況にあろうと坊ちゃんにぴたりとついて離れませんとも!
 ああ、また話がずれてしまいました。
 
 とにかく3年ほど、各地を放浪した後坊ちゃんも色々と思うとことがあったのでしょう。
 トランと同盟諸国とのちょうど国境にある小さな村にしばらく腰を落ち着けることになりました。
 久々にお布団の上で夜を過ごす・・・ああ、何て贅沢でしょう・・・・・・。
 ・・・おほんっ。
 まぁ、とにかくトランを出てからというものどこか張り詰めた様子の坊ちゃんでしたが その村では多少穏やかに釣りなどをなされて過ごされておりました。

 そこへ!
 何となつかしい顔と共に訪れたのは、今巷を騒がせている同盟軍のリーダーであるローラント君でした。
 初めこそ、また坊ちゃんを戦乱の渦へと巻き込んでいく運命をやらを呪いもし、ローラント 君に失礼なこともしてしまいましたが・・(え?何をしたかって、さすがにそれはここでは 話せませんよ・・はははは)、やはりこのグレミオが一緒に居たとはいえ同年代の友人と いうものが必要だったのでしょう。
 ささやかながら、徐々に昔のような笑顔を浮かべられるようになり、私は大層安心したのでございますとも!
 
 ですから、坊ちゃん!
 グレミオはこのグレッグミンスターのマクドール家で美味しいシチューを作っていつまで もお帰りをお待ちしておりますから・・・この世の中がつらいものばかりでは無いことを 多くのお仲間の方たちと共に経験なさってきて下さい。
 そして、いつか・・・いつか昔のように輝くばかりの・・・あの太陽のような坊ちゃんの笑顔をグレミオに見せてくださると信じています。