Name


 軍議の間の小休憩、何気なく吐かれたシーナの問いに各々会話していた幹部たちの意識が一気に 軍主であるダナへと集中した。


「僕の名前の由来、かい?」
「そうそう、『ダナ』なんて名前、珍しくないか?」
 年が近いせいか、誰よりも気安くシーナはダナへと話しかける。
 父親のレパントなどはそれを苦々しく思いつつも、主君であるダナが許しているので黙認している。
「そんなに珍しいかな?」
「ああ、俺も結構色んな奴と会ったりしたけど『ダナ』なんて名前の奴は一人も居なかったし」
「それはあんたの知り合いが女ばかりだからだろ」
 聞いていないとばかり思っていたルックが皮肉な口を挟んだ。
「・・・・・っ」
「くすくす・・・否定はしないんだね、シーナ」
「うるせーて・・・」
「さて、僕の名前の由来だったね・・・そう、僕は女の子だったんだ」

「「・・・は?」」
 シーナばかりでなく、どこからかの声も混じる。
 心の中で首を傾げたのは、この場に居る一同だった。

「うちの両親は何故か、生まれてくるのは女の子だと思い込んでいたらしくね・・・出てきた僕を見て さぁ困ったっていうことになった。何しろ考えていたのは女の子の名前ばかりで、第一候補が何と・・・ 『ディアナ』、なんていう、どこをどう見ても女の子にしか使えない名前だった」

 ディアナ・・・月の女神。
 両親の先見の明があったというか、これほどダナにぴったりくる名も無いではなかろうか。
 その美貌に浮んだ微笑にうっとりしながら、一同は軍主の言葉を耳に入れる。

「両親は慌てたらしいね」
 くすり、と笑ったダナに、テオ将軍を見知っている幾人かがその光景を想像したらしく・・・複雑な表情を浮かべている。
「母上はいっそのこと、ディアナのままでも良いんじゃないかと言い出したのだけれど、父上がそれは さすがに僕が可哀想だと止めてくれたらしい。けれど母上は余程ディアナという名が気に入っていた らしく、父上が提案する名前のことごとくに反対したらしい」
 シーナはぼんやりと思う。
 どこの夫婦も強いのは妻のほうらしいと。
「そこで父上は最後の手段にと、ディアナ、に音が似ている『ダナ』を提案して、お許しをいただいたらしい。 かくして、僕の名前はダナに決まったというわけだよ」
「へぇ・・・」
 シーナが腕を組んだまま頷いた。






「―――― というのはどうだろう?」




「はい?」
 縦振りを繰り返していた首を途中で止めたシーナがダナを見ると、悪戯っぽい光を瞳に浮かべて 笑っている。聞き耳を立てていた幹部たちも、呆気に取られている。
「即興で考えてみたんだけど、結構説得力はあるみたいだね」
「お前・・・作り話か!?今の!!」
「その判断はシーナにおまかせするよ。さて休憩は終り。会議の続きをしようか、マッシュ」
「はい」
 僅かに苦笑を浮かべたマッシュが、ダナの言葉に頷いた。