Blue


「ああ、いっちゃったね、ビクトール・・・」
 
 ネクロード攻略後、必ず戻ってくると約束し、故郷へと戻ったビクトールの背をダナは 周りの者のほうが(今回のメンバーはフリック、ヒックス、クレオ、シーナ)が辛く なりそうな視線で見送った。そして、いつまでもその場から動こうとはしない。

「あいつなんて居なくても、大丈夫だ」
 お前をリーダーだなんて認めない、などといったいどの口が言ったのか全身真っ青の フリックは今やダナにめろりんきゅ~・・・なのであるが、ビクトールのことをいつまで も見送っているダナに嫉妬の炎を燃やしたらしい。
 さりげなーく、ダナの肩に手をまわそうとした瞬間。
 くるり、と振り返ったダナに、フリックの右腕は妙な形で宙に浮くことになった。

「大丈夫なんかじゃないっ!」

 そして、続くダナのセリフに衝撃のあまり化石化した。
 つんつん突付くときっと、ぼろぼろと崩れていくだろう・・・。

「坊ちゃん、大丈夫ですよ。ビクトールは必ずすぐに帰ってきますから」
 真っ先になだめに入るのは、やはり幼い頃からダナを知っているクレオ。
 だが、そんなクレオにもダナは頑なに首を振る。
「駄目なんだっ!ビクトールは・・・ビクトール」
 




「いつも傍に居てくれないとっ!!」




 青い化石にピシリ、と亀裂が入り風にさらわれていく。
 化石というのは野ざらしのままだと自然の法則に従い、風塵に帰してしまう運命にあるのだ。
 ましてや、人為的な爆弾を落とされた状態では・・・
「何だよ、お前そんなにビクトールの奴のこと好きだったのか?」
 フリックほどでは無いにしてもこちらも少々ダナのセリフに衝撃を受けたシーナだったが それならば今こそがチャンス!とばかりにダナににじり寄った。
 いつもならフリックの邪魔が入るはずだが・・・ほら、今は野ざらしの青い化石状態。

「ううん、好きとか嫌いとかそういう問題じゃなくて・・・」
 ダナは眉をはの字に歪めて宣言した。





「絶対に必要な人なんだ!」





「「「「・・・・・・。・・・・・・」」」」
 ダナの言葉に一同は口をぽかん、と開けた。
 まさか、ダナがそこまでビクトールのことを大切に思っていたなど誰も想像もしていなかったのだ。
 まさに青天の霹靂。


「だって考えてみてよ・・・」
 ダナはネクロード城の最上階の窓から下を覗きながら、言葉を続ける。
「ここまで来るの、結構大変だったよね・・・」
 確かに簡単な道のりではなかった。
「だけど、僕たちはその道のりをまた戻らないといけない。ここは”すり抜けの札”もきかないみたいだし」
 そう言えばダナが袋から何かを出し入れしていたな、と思い出す一同。
「そして何よりも僕たちの誰一人として・・・ビクトールを除けば」
 ダナが一旦言葉をとぎる。
 何故か一同はごくりと唾を呑んだ。










「神行法の紋章を宿してないんだっ!」



「「「「「・・・・・・・・・。・・・・・・・・・」」」」」

















 その後、ビクトールが居るときよりも2,3倍の時間をかけてネクロード城の外へと
 出てきた一同は疲れきっていた。
 そして、ダナはある決意をしたのだ。



「フリック~
 今日も今日とて、メンバーの一人に入れて貰ったフリックはダナのにこにこ笑顔に ある場所へ連れて来られていた。
「今日は、ジーンさん」
「あら、リーダー。お仕事?」
「うん。実は・・・」
 フリックを脇に置き、ダナはジーンの耳元で何かを囁いた。
「・・・ということで」
「OK!わかったわ♪」
 ふふふ、と笑ったジーンはフリックに目をやる。
「・・・・・・・」
 嫌な予感がした。




「うわーっ!やめろーっ!!」

 ルミナリエ城二階にフリックの叫びがコダマした。











「はぁ~すっきりvvこれでもう不便じゃないね♪」
 ダナはご機嫌で今日もレベル上げに勤しむ。
 その隣にはフリック。
「ははははは」
 泣きそうな顔で笑っている。
 その他のメンバーが同情交じりの眼差しで見つめているが誰も変わってやろうと言い出す者は居ない。

 神行法の紋章を無理やりに宿されたフリックは、「青雷のフリック」ではなく・・・・・
 ただの青いフリック」になり果てていた。

 いいことといえば、ダナに常にメンバーに入れてもらえることぐらい。
 まぁ、それも彼には幸せなことなのかもしれない。






 フリックの不幸は続く。






※『神行法の紋章』:町やダンジョン内での2倍速度移動が可能となる。無いと移動がイラっとする。