Snow White 3


「――――・・・」

 クラウドは固まっていた。





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『前に行ったあの店で。待ってろよな!』
 それだけ言って、電話を切ってしまったザックスに無視してやろうかと思ったが、一応『自分を祝うため』の食事であるのだろうし、試験に合格したとはいえ、相変わらず懐は寂しい。ただ飯を食べられるなら、まぁいいか……と判断したクラウドは、タダより高いものは無いという何とも有難い格言があることをすっかり忘れきっていた。
 だからこその、今の事態なのだろう。
 ザックスより先に来て、カウンターに座っていクラウドの隣にやってきたのはザックスではなく……
 ―――― 神羅の英雄セフィロスだった。

「ザックスはまだか?」
 まるでそれが当然のごとく、クラウドの横に掛けながら(腹の立つことに、椅子の上でつま先立ちのクラウドとは違い、彼の長い足はきちんと地についている)話しかけてきた。
「……は、はい」
 腰まである銀髪が、店内のライトを反射してきらきらと輝く。
 黒一色の装いであるが、それがいっそうに彼の華やかな容姿を際立たせている。
 一瞬静まった店内はざわめきを取り戻し、集まる視線がかなり痛い。

(……何で、セフィロスが)

 そんな話は聞いていない。
 ―――― 許すまじ、ザックス。
 八つ当たり決定。

「そうか、では勝手にはじめ・・」

「おいっ、こらっ!!!」

 店の扉がガターンッと開かれる……というよりは、蹴破られる。

 荒々しく騒々しく、セフィロスとはまた違った注目を浴びながらザックスは登場した。
 目立ちまくっている。
 しかも、ザックスの目指す先は、クラウドの居る『ここ』だ。

 真剣に逃げ出すことを考えた。

「何であんたがここに居るんだよっ!」
 つかつかと歩み寄り、セフィロスとは反対側のクラウドの隣を陣取ったザックスが噛み付く。
「何故も何も、クラウドの合格祝いだろう」
「だーかーら、それなのになんであんたがここに居るのかって聞いてんだよっ!人に雑用押し付けやがって!」
「ふん、元々はお前の仕事が溜まり溜まっていたせいだろう」
「く……っ」
「私だとて、クラウドを祝ってやりたいと思ったまでだが」
「嘘つけ!あんたがそんな殊勝なたまかよ!第一!ソルジャーの宴会にも顔を出さないあんたが!」
「ふ、だからお前は馬鹿だというのだ。ソルジャーの宴会など、猛獣が周囲の迷惑かえりみず暴れているだけのようなものでは無いか。私は猛獣使いになった覚えは無い」
「……」
 反論しないのは的を射ているからだろう。
「とにかく!あんたは帰れ!」
「お前に命令される筋合いは無い。今夜の主賓はクラウドだろう」
「だったらクラウドに聞いてやるっ!」
 今まで二人の間に挟まれて身じろぎもせず静かだったクラウドの顔をザックスが覗き込んだ。


 ――――― そして青ざめた。


「あ……あの、ク、クラウド……くん?」
「ザックス、サー・セフィロス」
 普段仏頂面ばかり浮かべているクラウドの顔には、誰もが絶賛しそうに麗しい笑顔が広がっていた。
 ザックスだとて出会った当初ならば、『やぁ、目の保養だ、眼福眼福』とでも喜んだであろうが、生憎数日とはいえ一緒に暮らした仲だ。
 こんなときのクラウドは、かなり恐ろしい。
「あ、あのな・・・っ」
 顔をひきつらせつつ何とか宥めようとするザックスをセフィロスは面白そうに眺めている。
「二人の仲が良いっていうのは、凄く、とても、本当に良くわかった」
「いや、その……いや……全然良くないぞ!」
「だからさ」
 にこり、とザックスとセフィロスに交互に微笑みかける。




「――――― ずっと二人で飲んでれば?」




 低い声に、バシャリッと擬音がかかる。
 クラウドが、二人が言い合っている間に用意してもらった水をぶっかけたのだ。

「「……。……」」
「じゃあ」

 小柄な体が軽やかにスツールを下り、壊れかけた扉から姿を消していく。
 
 ぴちゃん。

 ザックスとセフィロスの髪から滴り落ちる水が、静まりかえった店内にやけに大きく響いた。

「―――― くっ」
「は!?」
 いきなり笑い出したセフィロスを、ザックスが『何故ここで笑える!?』と妙な物体を見るように睨みつける。
「くっくっ……この俺に水を引っ掛けるなど」
 非常に楽しそうに笑っている。
 だが、それがおかしいことに寒気がするほどに恐ろしい。
「クラウド・ストライフか……楽しませてくれそうだ」
(……おいおいおいおい)
 完璧にクラウドのことを『玩具』と認識したらしいセフィロスに、ザックスはひきつる。
 まるで無機物のように他人にはとことん無関心なはずの上司に目をつけられたクラウドの辿る道は果てしなく……険しい、だろう。
「ザックス。何をぼけっとしている。追いかけてなくていいのか?」
「!?」
 セフィロスの言葉に我にかえったザックスがまるで犬のように頭を振った。
「……お前は犬か。汚い」
「どうせもう濡れてるだろっ!・・・クラウドの機嫌が直らなかったらあんたのせいだからなっ!覚えてろよっ!!」
「ああ、せいぜい慰めの言葉でも考えておこう」
「ったく!!」
 どうしようもない上司を一睨みしたザックスは、駆け出した。





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「クラウドっ!……クラウドーっ!てあれ?」
 とりあえず目立つ金髪を便りに、走りまくったザックスはようやく見つけたチョコボ頭の人物の肩を逃すまじと掴んだ……のだが。
「……痛いんだけど?」
「え?あ……何やってんの?」
「見てわからないのか?」
「えーと……」
 クラウドの目の前に並ぶのは、見るからにチンピラ連中。
 しかも、中には何やら顔に見覚えのあるのが。
「おトモダチ?」
「馬鹿?」
 冷たい視線がザックスに突き刺さる。

「何をごちゃごちゃ言ってやがる!この間はよくもやってくれたな!覚悟しろよっ!」

「ああ、やっぱ絡まれてた?」
 合点がいって、ぽんと拳を打ち合わせる。
 十数人の相手に囲まれているというのに、全く小憎らしいほどに落ち着き払っている。
「あんたのせいだからな」
「俺?」
「あんたが止めたから、反抗する気も失せるほど傷めつけられなかった」
「……クラウド君、何気に非道ね」
「ごちゃごちゃうるせぇぞっ!!てめぇらなんか、今すぐここでボコにしてやるからな!!」
 クラウドが、構えた。
 滲み出る闘気にザックスのほうが、わくわくする。
「そんじゃ、俺も原因の一つとして頑張りますか」
 基本的に喧嘩は大好きなザックスだ。
 私闘は禁じられているが、さっさと始末して官憲が来る前に逃げてしまえばいい。

「やっちまえっ!!」






 ―――― さて、結果は語るまでも無いだろう。