Sleeping Beauty
その日。
一人の少年がミッドガルの地を踏んだ。
遥か遠いニブルヘイムからバスを乗り継ぎ、漸くたどり着いたのだ。
憧れの地、ミッドガル。
しかし少年の顔にはそれに対する喜びは見出せず、蒼白になった顔には脂汗が浮んでいた。
足元はおぼつかなく、バスから降りるなりすぐさま近くのトイレへと駆け込んでいった。
「うっ・・気持ちわる・・・っ」
どうやら車に酔ったらしい少年はしばらくそこから出てこなかったが、再び姿を現したときには幾分か顔色も元に戻っていた。そうして改めて少年を眺めてみると、はっと目を見張るばかりの美貌だった。
一見少女と見紛うばかりの造作。元気の良すぎる髪の毛は染めたのでは無い極上の金色の輝きを放ち、ミッドガルの光を受けて降り注ぐ星のように輝いている。
少し潤んだ瞳は透き通った一対のブルーサファイア。唇は薄桃に色づき、どこかの好事家でなくとも手に入れたくなる至高の芸術品だった。
幸いだったのは早朝ということで、未だ人の通りが少なかったことだろう。
そんな美少年と呼ぶにふさわしい存在は、僅かな手荷物を持ち街の中心部へと歩き出した。
―――天に向かって聳え立つ、神羅の本社ビルへと。
少年が故郷を遠く離れ、ミッドガルまで出てきたのは、都会に憧れる若者とは少々理由が違った。
もちろん、憧れが全く無いというわけでは無いだろうが、それ以上に少年には目的があった。
14歳というと、未だ未成年の扱いで親元を離れるには早すぎる気がしないでも無いが、少年は手に持っている書類がニブルヘイムの家に届いた瞬間・・・いや、それを申し込んだ時にすでに決意していた。
神羅の兵士・・・・ソルジャーになることを。
「ソルジャーになるまで、ここには帰らない」
少年は母親と幼馴染の少女にそう告げて家を出た。
”ソルジャー”とは神羅の創り出した最強の兵士の呼称で、そのソルジャーの中でも『セフィロス』というソルジャーは先のウータイとの戦いにおいて神の如き強さを示し、神羅を勝利へと導いた英雄の名だった。
ニブルヘイムのような片田舎においてさえ、その華々しい活躍は伝わってきた。
少年ならば誰もが一度は憧れる英雄セフィロス。
だが、年の割に大人びたところのある少年は若者にありがちな憧憬は持っていなかった。
少年にとってソルジャーとは、誰もが認め頼れる『存在』であり、『方法』だった。
少年はニブルヘイムの村において異質な存在だった。誰も少年と同じような色彩を持った人間は居ない。
父親はどこの誰ともわからず、母親と二人暮し。
生まれ育った場所であるにも関わらず、少年はいつだってよそ者扱いされた。
『認めてもらいたい』
認め、受け入れてもらいたい。よそ者扱いした村の連中を見返してやりたい。
少年がそんな望みを持つのも無理からぬところであった。
そして、その手段に少年はソルジャーとなることを決意した。
神羅ビルの壮大な様に気後れしつつも、少年は受付で願書を提出した。
「試験は三日後です。三日後の9時までに兵舎の第一会議室へ集まって下さい。筆記試験の後、実技試験が行われますので、動きやすい服装で来て下さい。受験票はこちらになります。忘れないように持ってきて下さい」
流れるように言われた少年は、受験票を受け取り、兵舎への地図ももらってビルを出た。
「・・・三日後、か」