Pinocchio 5
パーティから後、クラウドの日常は……特に変化してはいなかった。
いつものようにセフィロスに揶揄われながら、ザックスの尻を叩く日々だ。
一つ変わったことがあるとすれば、執務室にクラウドを遊びに連れ出そうと訪れるルーファウスが姿を見せるようになったことだろうか。このルーファウスの訪問がクラウドの頭を悩ませている。
元々、人付き合いの下手なクラウドである。言葉を多少かわしたとはいえ、立場の全く違うルーファウスとの付き合いをどうするべきか対処しかねている。しかしそれはルーファウスの強引さで、クラウドは有無を言わさず振り回されているので対処がどうと考える余地が無い。
一番困っているのは。
「気配がする」
「……」
いきなり椅子から立ち上がったセフィロスが扉を忌々しそうに睨みつけた。
これである。
セフィロスはルーファウスの訪問を非常に、嫌がっているのだ。ルーファウスの訪問があった後のセフィロスの期限は地を這い、手に負えない。そして、仕事が全く進まなくなる。
セフィロス付の下士官であるクラウドには非情に悩ましき問題だった。
けれど、自分で解決しようにもどうにもならない。
セフィロスもルーファウスもクラウドが何かを言って行動を制限できるような二人ではない。
結局、板ばさみになったクラウドは今日も今日とて、何とも言えない微妙な表情を浮かべることになっている。
「あれもしつこいことだ」
「……そうです、ね」
最近ルーファウスはクラウドを誘ってのゴールドソーサー行きを計画している。
ルーファウスがどこに行こうと勝手だが、そこにクラウドを巻き込まないで欲しい。兵士であるクラウドがゴールドソーサーになんて行ける訳が無いし、遊ぶ金なんて無い。そして、興味も無い。
「クラウドっ居るかい!」
きちんと居ることを確認して突撃しているくせに、ルーファウスは来る度にそう声を掛ける。
もちろんセフィロスへの嫌がらせである。
「勤務中だ」
「私の相手をするのも仕事のうちだろう?」
誰もが震え上がるセフィロスの冷たい声にもルーファウスは負けない。その図太さはソルジャー並と評価している。
「そんな仕事は無い」
「私はクラウドに用事があって来たんだ」
セフィロスの言葉を無視して、ルーファウスの視線がクラウドに固定される。
「やあ、クラウド。融通のきかない上官で苦労しているね。私の下に移るかい?」
「……いえ、今で十分満足してます」
クラウドの回答にセフィロスがにやりと笑い、ルーファウスが面白くなさそうにする。
「まあ、いずれ考えてくれればいいか。そうそう、先日打診していたゴールドソーサー行きなんだが……」
「了承した覚えは無い」
すかさずセフィロスが口を挟む。
「今のところ急を要する任務は無いと確認しているから大丈夫だろう。それで、先方にも是非にとのことだから、一緒に楽しめる相手と私も行きたいし」
ゴールドソーサーには神羅も出資している。ルーファウスが招待されるのも不思議では無い。
「はあ……」
「だからクラウドに来て欲しいんだ」
どうしてそこで「だから」になるのだろうか。
「クラウドは私の友達だからな」
「……」
ルーファウスに友達認定されてしまっている。クラウドが認めた覚えは無い。
それとも友達というのは一方的な認定だけで成立するものなのだろうか。(そんなわけない)
クラウドの顔が微妙に引き攣っている。
「クラウドは俺の下士官ではあるが、一方で訓練生だ。ミッドガルを離れることは許可できん」
「つい先日もクラウドはミッドガルを離れていたが?」
「あれは訓練の一環だ」
ああ言えば、こう言う。
「ふん、ではゴールドソーサー行きも訓練の一環にしてしまえばいい」
無理が通れば道理が引っ込むという、ルーファウスの言葉だ。
「訓練生が一人で行く訓練など無い」
「なるほど、ではクラウドの上官であるセフィロスが行けば問題無いということだ」
「……」
無表情になった(元々あまり表情は変わらないが)セフィロスにしてやったりとルーファウスが笑う。
「ということで、クラウド。ゴールドソーサー行きは二日後だ。準備しておけよ」
「は……」
急すぎるというか、いったい何を準備しろと言うのか。
どう対処すべきかとセフィロスを見れば、苦虫を噛み潰した表情でルーファウスを睨んでいる。
しかしそれ以上否定しないということは、決定してしまったのだ。
「それじゃ、クラウド。二日後に」
「……はい」
結局、クラウドとはほぼ会話せずに言いたいことだけ言ってルーファウスは去って行った。
「……クラウド」
「イエス、サー」
セフィロスの手元のペンが原型をとどめず、鉄屑と化している。
「せっかくの副社長の好意だ。せいぜい集っておくとしよう」
「……」
「予算は当然ルーファウスもちだ。思う存分、訓練をさせてもらえ」
「イエス・サー」
ゴールドソーサーでやる訓練って何だろうな、とクラウドの目が遠くなるのだった。