+Pinocchio 4


 『化け物』

 ルーファウスがセフィロスを伴って立ち去ってからクラウドの脳裏にはその言葉が繰り返されていた。
 強くなる……行き着く先が『化け物』。
 確かにソルジャーは化け物と呼ばれるに相応しい強さを持っている。
 しかしルーファウスの言葉はそんな当然のことを言っている風では無かった。
 今度こそクラウドは壁の花になるべく、食べ物を確保して隅に移動していく。
 しかし直前までルーファウスやセフィロスの傍に居たクラウドは注目されていた。
「ちょっと君……」
 まさか自分が声を掛けられるとは想像もしていないクラウドは気づかず歩いていく。
「君だよ、君!」
「は……」
 漸く気がついたクラウドが振り返ると、少し神経質そうな男性が立っていた。
「君が最近セフィロスの下士官になったクラウド・ストライフか」
「は、はい」
 人に命令しなれている雰囲気満載の男だった。神羅の関係者……なのはここに居るから間違いないのだろうが。
「私はソルジャー部門統括のラザードだ」
 クラウドは目を見開いた。まさか自分の所属しているところのトップだったとは。
 確かに一兵士でしかないクラウドが面識がある訳が無いが、トップの顔を覚えていないなど失態である。
「す、すみませんっ」
「ああ、構うな。副社長と話をしていたようだが?」
「はい……自分の下で働かないかと。でも、断りました」
「何故」
「は?」
「ソルジャー部隊などただ戦うしか脳の無い者たちの集団だ。君の頭の良さならば副社長の下でのほうが働き甲斐があるだろう」
「俺はっ……いえ、私はソルジャーになりたいと思っています」
 ソルジャーのトップであるのに、ソルジャーを馬鹿にされたような気がしたクラウドはラザートを睨むように言い切る。
「わからん」
「……」
 しかしラザートの反応は薄かった。
「確かにソルジャーは神羅の広告塔だ。そのぶん給料もいい。だがそれは危険手当の意味もある。神羅に敵対する者が居れば真っ先に戦場へ投入される、死と隣り合わせの職場だ。死ねばおしまいだ」
「……。」
 クラウドはそうは思わない。
「君だってそんな綺麗な服を着て、美味しいものを食べて優雅に暮らしていきたいだろう?」
 価値観が違う。そうとしか言いようが無い。
 こういう場合の両者というのはだいたい平行線を辿る。
「……私は、そういうのは苦手です。それに、俺は、守られるより……守りたい」
 クラウドの望みは強くなること。何者にも媚びず、阿らず、ただ誰にも負けないほどに強くなりたい。
 セフィロスのように。
「守りたい、か」
 何故かふ、とラザートが笑った。
「君は、ザックスと似ているな」
「え……」
「セフィロスのところに居るならザックスは知っているだろう?」
「は、はい」
「私はあの男のことはセフィロスより評価している」
「……。」
 いったいどのあたりが?とクラウドは辛うじて口に出さなかった。
「そうだな、君はまだ若い。考える時間はあるだろう。私の言葉も覚えておきたまえ」
「はい」
 では、とラザートは他の相手に声を掛けられて去っていく。
 クラウドは食糧を載せた小皿を持ったまま、ラザートの言葉を考えていた。
 ルーファウスの言葉も。
 ソルジャーという存在は神羅の中で思ったほど大きな存在では無いのだろうか。
 それはクラウドにとって、衝撃的な事実だった。