+Pinocchio 2
「俺は確か休めと命じたはずだったが」
地下のトレーニングルームに来てみれば、目の前では筋トレに励む見慣れた姿があった。
セフィロスの言葉に、体を動かしていたクラウドが気まずそうに動きを止める。
腕を組んで現れたセフィロスはいつもの制服を脱ぎ、ラフな格好に着替えている。
滅多に拝めないレアな姿だったが、命令を破ったクラウドにそれを堪能している余裕は無い。
「あ……えーと、もう少し体を動かしたいと思いまして」
「お前は成長したくないのか?」
「は?」
「前にも言ったがその身長のままで良いのか?」
「……っいいわけ無いです!」
いったい何を言い出すのだと、白い顔にクラウドは朱をたちのぼらせる。
「それならばきちんと休め。成長には成長ホルモンが必要だ。それは無理をしている時ではなく、体を休めている時に分泌される。……私としては今の身長でも特に文句は無いが?」
見下ろされるように言われ、身長差をはっきりと意識させる。なかなかに意地が悪い。
クラウドの目が据わる。
「……サーは、さぞかし眺めがよろしいでしょうね」
「そうだな。俺より高い奴はそうお目にかからんからな」
「そうでしょうね……しかし私もまだまだ成長途中ですから」
「ならば休めるときには休んでおけ」
「……アイ・サー」
渋々頷いたクラウドは鉄アレイを放りだした。
「それで、サーは何故こちらに?」
「ああ丁度良かった。少し付き合え」
上司であるセフィロスに休日を強要されたのだが、命令されれば従うのが兵士というものだ。
「イエス・サー」
二つ返事でクラウドは頷き、歩み去ろうとする背中を追いかけた。
追いかけた先は、ミッドガルの高級紳士服の店だった。
一人だったら絶対に入ることなど無い敷居の高さを感じる店にセフィロスは平然と入って行く。
「ようこそお越し下さいませ」
深々とお辞儀をして二人を……というかセフィロスを迎え入れた相手もいかにも高級なものを扱ってます!と言わんばかりの年配の紳士だった。
「これのサイズを測って夜会用のタキシードを適当に選んで作ってくれ」
セフィロスが指し示したのは何とクラウドだった。
「は!?……サ、サー!俺……私は別にそのようなものは必要は」
「必要だから作るんだ。三日後にルーファウス主催のパーティに出なくてはならなくなった」
それがどうクラウドに関係するのか。誘われたのはセフィロスだけだろう。
それがクラウドの表情に出ていたのか、あっさりとお前も来るんだといわれて目を見開いた。
「は?何で私が!?」
「お前は俺の下士官だろう?」
「そうですが……」
「お前も連れて来いとのお達しだ。諦めろ」
「……」
ルーファウスと言えば確か、プレジデントの一人息子だ。神羅のナンバー2と言ってもいい。
数少ないセフィロスが無視できない相手の一人ではある。
「お前、礼服など持っていないだろう」
断定だった。間違っていないけれど。
「別に既製品でも……」
「俺の連れに?」
そうですね。天下の英雄様ですからね。
これ以上言っても無駄なことがわかったクラウドは大人しく人身ごく……メジャーをしっかり用意して待ち構えている紳士に指示されるがままフィッティングルームに出頭した。
礼服を作るなどクラウドにとっては初体験だ。
下着姿にされて、そんなところまで必要なのかと思うほど色々な場所を計られる。
小一時間ほどかけて出て来たらセフィロスはまるで自宅のように高級なソファに身を預け、紅茶を飲んでいた。
クラウドが少しばかり殺意を抱いても仕方ないだろう。
「終わったか。アルフレド、三日後に間に合わせたい。パターンオーダーで構わんから間に合うように頼む」
「畏まりました。ではデザインは……」
アルフレドというのが紳士の名前らしい。
様々な服が並んでいるパンフレットを持ってセフィロスとああだこうだとやりだす。
クラウドには何が何やらわからないので、おまかせするしか無かった。
「まあ三日後なら幾ら成長期の子供とはいえ、慎重の変化も無かろう」
むかっ。
ぼけっとしているクラウドにセフィロスが揶揄うように声を掛け、見事に反応してしまう。
クラウドに身長の話は禁句である。
「さようでございますが、三日会わざれば刮目して見よとも申しますから」
微笑ましそうに物腰柔らかにそう言われと、クラウドの反発もしゅるしゅると収まっていく。
「構わん、その時にはフルオーダーで作って貰おう」
「ご贔屓いただきありがとうございます」
聞き捨てならないことを聞いたが、それよりもクラウドには気になることがあった。
「あの……代金は」
見るからに高そうだ。クラウドの懐にそんな余裕は無い。
そこでくくっとセフィロスが笑った。
「俺からのプレゼントだ。とっておけ」
「……ありがとうござい、ます?」
こんな嬉しくないプレゼントがあるだろうか。
どうせプレゼントをくれるというのなら武器の一つでも貰いたいところだ。絶対にそんなこと口にしないが。