Pinocchio 1
「え……えへ」
神羅本社のセフィロスの執務室に戻ってきたセフィロスとクラウドは、室内の惨状に……その元凶に、全てが凍りつきそうな視線を突き刺した。
その相手はもちろん誤魔化すように笑っているザックスだ。
「……抹殺してもいいかな?」
「許す。思う存分殺れ」
「ちょ……っ」
クラウドとセフィロスのやりとりに、ザックスが慌てて立ち上がる。
「いやっ俺だって一生懸命だな……っ!」
「結果が伴っていなければ意味ない」
ザックスの言い訳をすっぱりとクラウドが一刀両断する。
「うう……クラウドが冷たいよ~」
嘆くザックスに同情する者は居ない。
セフィロスの執務室は溜まった仕事が山のようになっている。セフィロスとクラウドが出て行ってから処理された案件が一つでもあるのか怪しいところだ。
今やザックスに向ける二人の心は一つ。
『この役立たずが!!』 である。
「ごめんってな、なっなっクラウドさ~んっ!!」
「とりあえず、邪魔」
すがり付いてくるザックスをあっさり見捨てて、部屋の外へ追い出した。
そして改めて部屋を振り返り、大きく溜息をついたのだった。
決済するのはセフィロスの仕事とはいえ、それを手伝うのはクラウドの仕事だ。
「サー……」
「クラウド。お前は一旦戻って休みをとれ」
「しかし」
「ソルジャーならば有無を言わさず扱き使うところだが、お前は兵士だからな。休日を取らさねばならんらしい」
面倒なことだと言わんばかりに椅子に座ると、端末をたちあげ自分は仕事を始める。
その気になりさえすれば、セフィロスほど有能な男は居ない。
「……失礼します」
「ゆっくり休め」
労いの言葉に微妙な表情を浮かべ、クラウドは執務室を後にした。
ザックスと共に生活している部屋に戻ると、クラウドは軍服を脱いでベッドに横になった。
ちなみについて来ようとしたザックスは同僚に『お前は仕事だ』と言われて連行されて行った。
(俺……全然役に立って無かったな……)
思い出すのは圧倒的なセフィロスの強さ。
クラウドに出来たのは指示のまま動くだけ。改めて自分の弱さを自覚した。
先ほどだって……セフィロスのほうが何倍もクラウドより働いているのに、クラウドは休んでセフィロスは仕事をしている。
セフィロスには下士官も秘書も必要無い。その気になれば全てを一人でこなすだろう。
(居る必要が……あるのかな……)
セフィロス付の下士官とされたクラウドだったが、果たして居る意味があるのか。
ザックスはまだいい。事務処理はともかくソルジャーとして名を上げている。
セフィロスが分身できない以上、各地で起こる戦闘に参加するのはソルジャーの仕事だ。
クラウドだけが……
「……やめた」
クラウドは腹筋を使って起き上がり、トレーニングウェアを着込む。
うじうじするのは性分では無い。
足りないなら努力するしかない。それしか出来ないのだから。