丘の上の白い家
「街に住もう」
「は?」
「……」
クラウドの言葉に顔をあげたザックスは空耳だったかと首を傾げ、セフィロスは無反応だった。
何しろ大の人嫌いのクラウドは、『ご近所付き合い』とやらをするのが嫌で誰も足を踏み入れないような険しい山を登ったところに平地を作り(グラビガで整地した)そこに家を建てた(働かされたのはザックスだ)。
そんなクラウドが『街に住もう』などと幻聴以外の何物でもない。
「街に住む。決めたから」
「おいおいおい。待て、クラウド。突然どうしたんだ?」
「…別に」
始まった。クラウドの口癖であるこれが出るとザックスにもセフィロス(…はクラウドに嫌だということが無いが)にもどうにもならない。いったいどんな理由でクラウドが街に住むなどと言い出したのかはわからないが二人には付き合うしか術は無い。ザックスもセフィロス(は問題外として)もクラウドから離れるなど考えもしていないのだから。
「それでどの街に住むんだ?」
「山を下りて海側にしばらく行ったところに街があるだろ」
「ああ、クトゥーラとか言う街だっけか」
何度か買出しに出向いたことがある。
「そこに住む」
「そりゃぁ、クラウドがいいって言うんならいいけどな」
ザックスはクラウドと違って人と交わりあうのが嫌いでは無い。むしろ好きだ。
しかしソルジャーとしての体質からあまり一所に落ち着くことが出来ない。何年経とうと姿が変わらない年をとらない人間は、最初は何とも感じなくてもいつしか人はその異質さに排除しようとする。
「住むっていうからには、しばらくは居るんだな」
「うん」
ザックスはがしがしと頭を掻き毟り、会話に全く参加してこないセフィロスをちらりと見た。
クラウドが居ればそれでいいという、積極的なのか消極的なのかわからないこの男は面倒ごとは全てザックスまかせだ。
「とりあえず住む上を確保しないとな」
「それなら、もう決めた」
「は!?」
「ここ」
山を下りた三人はクラウドに案内されるがまま、その場所に来ていた。
青い海と白い砂浜を見下ろす高台に建つ瀟洒な屋敷。ザックスがイメージしていたものとあまりにかけ離れすぎていた。
呆然と眺めるザックスの脇をクラウドとセフィロスは平然と歩いていく。
ザックスも慌てて続く。
クラウドは鍵を取り出すと金の縁取りされた鍵穴に突き刺した。
「クラウド、ここどうしたんだ?」
「買った」
「か…買った、て…」
そんなあっさり買い物できるようなものでは無い。
「掃除はしてあるのか?」
「してるって言ってた」
いやいや、問題にするのはそこじゃないろうお二人さん!!
俺か。おかしいのは俺だけか!?
「クラウド!そんな金がどこにあったんだ?」
激動の人生を歩んできたわりに世間知らずなクラウドだ。騙されて不良物件でも掴まされた訳じゃないだろうなと心配になってくる。
「金?…そんなもの払ってないけど」
「はぁ!?お前、今買ったって…」
「買ったというか…交換した」
何と何を交換すればこんな家を景気よくぽんとくれるんだ。
(おいまさか、俺の知らない間にヤバイことに手出してヤバイ奴に騙されてんじゃ…それとも第二のセフィロスでも捕まえたんじゃないだろうな!?)
クラウドに知られれば速攻でメテオを食らわされそうなことを考える。
「俺が持ってたマテリアを気に入ってさ。どうしても譲って欲しいっていうから交換した」
「マテリア!?…待て、何のマテリアだ?」
「心配しなくてもレアもんじゃない。普通のマテリアだ」
ただしクラウドが所持しているからにはいずれもマスタークラスであったことは確実だが。
普通の人間が所持してもただの綺麗な宝石、という価値程度にしかならない。
「ならば何の問題も無かろう」
「あんたは全く何も問題だとも思ってねーだろうが!」
一人やきもきさせられるザックスは、頭が禿げそうだった。
わが道を行きすぎる二人に付きあわされるザックスは疲労度が濃い。
「さっきから叫んでばっかだけど、ザックスは気に入らないのか?」
「お前が叫ばしてるんだろうが…別に気に入らないわけじゃねーよ」
斜めに日差しが入り、壁に屈折して届く光は柔らかい。掃除が行き届いた室内には心地よい雰囲気が満ちていた。置かれている家具も趣味がよく、落ち着いている。
実に過ごしやすそうな、文句の欠片も見当たらない。
「セフィロスは、正宗振り回すの禁止だからな。破ったら追い出す」
「うむ」
「ザックスは女を連れ込むな」
「するかよ!」
いい加減クラウド一筋だというのに未だにわかってもらえない我が身を嘆く。
「それじゃ、ここで文句無いよな」
「もとより。お前のすることに否やはない」
それもどうなんだ、セフィロス……。
「右に同じ~、いい家じゃん」
入手方法に問題が無いのならば、クラウドがどういう意図をもってこんなことを始めたのか気にはなるが…僅かばかりの時間を楽しむのにザックスも文句は無い。
「そんじゃ、まぁ魚でも獲ってくるか」
自給自足生活が長いせいか、ザックスは海に飛び出す気満々だった。
「それでは俺たちは食事に行くとするか。偶には手のこんだ料理も良かろう」
「そうだな」
「おいっ!俺は除け者か!」
そういうときばかりセフィロスは素早い。
「おいっ俺も行くからな!」
こうして3人の新生活が開始した。