-美しきもの-
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セフィロスの神羅での地位は軍で言えば、ナンバー3にあたる。 セフィロスの上にはハイデッカーがおり、その上にはプレジデント神羅が居る。 その上司二人は、あまり・・・というより全く有能ではない。いや、はっきり言って無能だ。故にセフィロスは時折、しなくてもいい苦労をさせられることがある。 今回のミッドガルへの視察もそのしなくてもいい苦労の一つであった。 ゴールドソーサーに行くついでに、ジュノンへ視察に行く予定を立てていたプレジデントは予定日までに仕事が終わらず、ジュノンへの視察を中止してゴールドソーサーに飛んだ。被害を受けたのはプレジデントの視察の予定を入れていたジュノ基地だ。プレジデントが来るというのでさまざまな準備をしていたものが全て無駄になる。・・・苦情という名の嘆願が本部に届き、丁度予定の空いていたセフィロスがプレジデント代理で視察へ行くことになった。 セフィロスにとって迷惑きわまり無かったが、ジュノン側としてはプレジデントに来られるより余程士気が上がると、喜んだという・・・。 「どうした?クラウド」 下士官ということで、セフィロスに一緒に同行させられたクラウドは蒼白な顔色でぐったり椅子に腰掛けていた。 「・・・・・いえ」 答える声もいつになく弱弱しい。 「・・・ああ、乗り物酔いか」 セフィロスの言葉にクラウドのわずかに潤んだ青い目が『言うな。余計に酷くなる』と無言の抗議を伝えてくる。 「前回のアイシクルエリアのときは何とも無かっただろう?今回のほうが揺れも少ないと思うが」 確かに、前回の緊急出動でアイシクルエリアに言ったときは、ほとんど貨物扱いだった。 だが状況が状況だっただけにクラウドは『乗り物に乗っている』という意識をする暇も無く、初めてのレベルAミッションに緊張してそれどころでは無かったのだ。だが、今回はプレジデントのために用意されていた豪華客船にゆったりとした行程・・・乗り物酔いを再発させるに十分だった。 「乗り物に酔うというのは、三半規管の未発達が原因の一つではあるらしいが・・・お前の場合は心因的なものだろうな」 体術であれだけのバランス感覚を誇るクラウドが三半規管未発達なわけが無い。 「・・・・・」 クラウドは無言でセフィロスの話を聞き流していた。たぶん半分も頭には入っていない。 今は胸のむかつきと吐き気を耐えるので精一杯だった。 願うのは出来るだけ、最大速力で、命一杯に早くジュノンに到着して欲しいということだけだ。 そんな半死半生のクラウドを、セフィロスは退屈しのぎに楽しそうに眺めていた。 (・・・・・くそ、覚えてろよ・・・・・っ) クラウドは、心の中でそっと復讐を誓った。 漸くジュノンの基地に到着したとき、情けなくもクラウドは千鳥足だった。 地面に足をついても、まだ揺れているような気さえする。 一度吐いてしまえば楽になるのだろうが、そんな無様なところをセフィロスに見せるのは嫌だった。ザックスが居れば、『そんなところで意地張っても仕方ないだろうに』と言っただろうが。 「大丈夫か?」 「・・・・大丈夫、です」 開閉口でセフィロスに問われ、クラウドは精神力で答える。 飛行艇から続くスロープには、基地のお偉方がずらりと勢ぞろいしていた。 「・・・揃いも揃って暇人どもが。出迎えなど必要無いと伝えただろうに」 セフィロスは無駄を嫌う人間だ。 そして、基地のことながら今雁首を並べているお偉方より余程隅々まで知っている。案内など必要無い。名目ばかりの視察は、ただ単にプレジデントが己の威光を示すために設けられたに過ぎないのだ。それを知っているからこそ、今回の視察はセフィロスにとって馬鹿馬鹿しいことこの上ない。 「さっさと済ませて、さっさと帰るとするぞ」 「・・・はい」 帰りの行程を思い、クラウドは憂鬱になった。 「サー・セフィロス!この度は、わが基地にようこそ!」 スロープから降りたセフィロスに、この基地の責任者らしき男が早速声をかけてくる。 セフィロスはそれにちらりと視線を走らせ、かつかつと颯爽と歩いていく。 その後をあわてて追いかけるお偉方・・・クラウドは、更にその後に続いた。 基地の中を歩いていくひときわ目立つ長身と銀髪に、『サー・セフィロス』と各所からざわめきが聞こえてくる。勤務中であるにもかかわらず兵士たちが手を止め、その姿を視界に入れようとする。 彼等にとってセフィロスは英雄であり、憧れだ。彼にあこがれて神羅に入隊した人間はそれこそ星の数ほど居るだろう。 「クラウド」 その光景を他人事のように少しばかり離れたところで傍観していたクラウドをセフィロスが振り返る。セフィロスに向いていた視線が丸ごとクラウドに移った気配がした。 「離れるな」 いったい何者だ?という周囲の疑問を感じつつ、クラウドは上司の命令どおり、お偉方に『失礼します』と断りながら、セフィロスの斜め後ろに移動した。 ざわり、とまた周囲がざわめく。今度は少しばかり嫌な気配も含みながら。 「サー・・・彼は?」 「私の下士官だ」 何か文句あるか、と言わんばかりの口調に基地の責任者は慌てて口を閉じた。 セフィロスは無駄を嫌う実力主義者ではあるが、話がわからない人間ではない。敵には鬼だ悪魔だと罵られていようと、味方にはそれなりの・・・まぁザックスに言わせればあって無いようなものらしいが・・・気遣いもする男だ。だが、決して慈愛に満ち寛容に溢れているわけでは無い。セフィロスの逆鱗に触れ、辺境の基地に飛ばされそのまま消息を絶った人間も居る・・・などという噂もある。 触らぬ神に祟りなし・・・セフィロスと、幼いと言ってもいい見た目だけはすこぶる宜しいクラウドの二人の姿に、関係者はそれ以上口に出すことは無かった。 |
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これからちょっと話が動き出す・・・かも(やっとか)