-美しきもの-

・・・・5







「クラウドっ!」
 ザックスが叫んだ。


 瀕死のドラゴンのどんな気まぐれか。血走った目が、クラウドを貫く。
(・・・マズイっ)
 何が、マズイのかもはっきりとはわからないまま、それでも逃げろと本能が警鐘を鳴らす。
 大きく開け放たれた顎の向こうに赤い閃光が灯るのが見えた。
 ドラゴンのブレス。
 あんなものを食らえば生身のクラウドなど一瞬にして灰になる。
 逃げなければ。

 どこに?

 ブレスの届く範囲は広い。
 クラウドを狙って放たれたなら、それはクラウドを追って森をも焼き払うだろう。
 セフィロスならどうする?ザックスなら?
 ・・・いや、彼等はソルジャーだ。クラウドとは違う。
(考えろ・・オレが出来る精一杯のこと・・・オレが・・・)
 思考は一瞬。
 失敗すれば・・・死ぬ。けれど、セフィロスに持たされたマテリアが助けてくれるはずだ。
          たぶん。
 クラウドはブレスの嵌められた左手を天に掲げた。
 神経を集中させる。
          できる。自分には、できる・・・・・っ


      ブリザドッ!!」


 冷気系最低レベルの呪文でドラゴンのブレスになんて対抗できないだろう。
 だが、一瞬の時間を稼げばいい。
 後はセフィロスかザックスか・・・彼等がその隙を逃がさずドラゴンを倒してくれる。

 クラウドの冷気のマテリアが青い光を帯び、手の平に光が生まれる。
 ドラゴンに向かって、青白い光が           走った。





 ドラゴンの視線がクラウドを向いた僅か後、それに気づいたザックスは『逃げろっ』という思いをこめて
その名を叫んだ。だが、ドラゴンの視線に射竦められたようなクラウドはその場を微動だにしない。
 ザックスは焦った。
 守ると誓ったのに。こんなに近くに居るのに。
「うぉぉぉーーっ!!」
 バスターソードで向かってくるモンスターを叩きつけるようにぶった斬り、ザックスは振り向いた。
 その視界が青く染まる。
「!?」
 見慣れた魔法の発動の光り。
 だが、その強さが半端では無い。
          セフィロスか?

 そう思った瞬間、大地を轟かせるようなドラゴンの叫び。
 断末魔の声、だ。
 青白い発光の後、ゆらりと揺れる影・・・ドラゴンの巨体がゆっくりと傾いでいく。
 どーんっと周囲の木々を道連れに・・・ドラゴンが息絶えた。

「・・・っクラウドっ!!」
 土煙の中、ザックスは必死でその姿を捜した。
 どうか、どうか無事でいてくれ・・・っくそっ・・・こんなことなら置いてくるんだった・・・っ
      邪魔だ」
「あっ??こっちはそれどころじゃ・・・・へ?」
 ぼんやりとした影になってザックスに近づいてくる影・・・セフィロスだ。
「何をしている、モンスターは片付けたのか?」
「はっモンスターっ!?そんなことよりクラウド・・クラウドは!?」
「ここに居るが?」
「は?」
 ぱちぱちと目を瞬いたザックスは・・・姿を現したセフィロスに横抱きにされたクラウドを発見した。
「クラウドっ!!」
 意識があるときならば、こんな扱いを許容したりしない性格なだけにザックスは血の気の引く思いがした。
 何が何が。まさか。
「クラウドっ・・・クラウドは・・クラウドは・・?」
 慌てふためくザックスに、セフィロスはやれやれとばかりに肩をすくめた。
「お前は常々思っていたが、少々落ち着きが足らんな」
「っ今は、そんなことどーでもいいんだよっ!それよりクラウドっ」
「うるさい。わめくな。心配せずとも無事だ。・・・魔力の許容量オーバーで失神しているだけだ」
「へ?魔力?」
 何で?
「先ほどのブリザド・・いや、実際にはブリザガ並の威力だったか・・・クラウドだ」
「へ?・・・旦那、じゃなくて?」
 てっきりセフィロスがやったことだと思っていたザックスは、目を丸くする。
「私はドラゴンにとどめを刺しただけだ。・・隙はクラウドが作った」
 そう言って、セフィロスは腕に抱くクラウドを見下ろした・・・・それは今までザックスが、いや、他の誰も見たことが無いような穏やかで、満足そうな微笑を浮かべて。
 そんな表情も出来るのか、と驚くザックスの口がぱかりと開く。
「驚くべき魔力とマテリア適性値だな。これで器が完成すればどれほどのものになるのか・・・楽しみだ」
 本当に楽しそうに言う。
 ザックスの背筋がぞわりと逆立った。

「クラウド・ストライフ、か・・・・」

 セフィロスは小さく呟くと・・・・・眠るように目を閉じるクラウドの額に口づけを落とした。
 その動作があまりに自然で、銀と金のコントラストがあまりに美しくて。
 ・・・・・見惚れてしまったザックスは、だが、すぐに我に返り叫んだ。

「わーっわーっ!何やってんだっ!!オレの弟分に手ぇ出すんじゃねーっ!!!」
 
 叫んだザックスは、セフィロスの腕からクラウドを奪取しセフィロスを睨みつけた。
 その視線を、口角を上げた皮肉げな笑みで受け流す。

       『弟分』・・・か」
「何だよ・・」
「いや」
 くつりとセフィロスが笑う。
「お前は常日頃私のことを情緒の欠如した鈍感だと評するが・・」
「そうだろ」
「・・・お前も自身については相当に鈍いらしい。それとも自覚するのが・・・怖い、のか?」
「何言って・・・」
「まぁ、いつまで誤魔化せるのか見物だな」
 セフィロスの言っている意味がわからずザックスは嫌そうに顔をしかめる。
 だが、セフィロスはそれ以上言葉を重ねなかった。

 
 






 




 その想いは未だ熟れず          ・・・










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ミッション完了!・・までどれだけ時間かかってるんだか(苦笑)