Cinderella 5
医師からは全治一週間という診断を下されたクラウドは、最後に打撃を受けた背中に湿布を貼ってもらって執務室に顔を出した。
「見かけによらず中々丈夫だな」
「……ありがとうございます」
医師の診断を一応上司であるセフィロスに告げたところ感心したように言われた。
だが、誉めているように聞こえるが……貶されていないだろうか?
「いや、でもマジ打ち身だけで済んで良かったって!オレなんか初めて相手したとき肋を六本折られたんだぜ」
天国のじーちゃんが一瞬手を振ってる光景が見えたぜ、とザックスが遠い目をする。
ぬけぬけと『天国』というあたりが図々しい。
「お前は見かけによらず軟弱だな」
「あのなっ!普通の人間だったら死んでたぜっ!?」
ザックスが抗議する。
「その程度で死ぬようなソルジャーなど端から不用だ」
「死ななかったんだからいいじゃん」
「…………」
二人ともに、同情の欠片も無い言葉がザックスに贈られた。
さすがのザックスも打ちひしがれる……あまりに虐げられている。
「サー、治療のことで質問が」
「何だ?」
二人は意気消沈するザックスに構うことなく話を続ける。
「以前、ミッションで負傷したときには回復のマテリアを使用しましたが、今回は通常の治療のみでした。使用しない理由が何かあるんですか?」
「緊急時と通常時の違いだな。ミッションの時に自然治癒にまかせていては支障が出る」
確かに。
「それからマテリアと使用者の希少性。マテリアは無尽蔵にあるわけでは無い、またそれを使いこなせる者も多くない。例え使えたとしても、回数には限りがある。それを怪我人が出るたびに使用していてはいざという時に使いものにならん」
「……そんなにマテリアを使用できる人間が少ないとは思えないのですが?」
元々の魔力の問題や適性もあるが、初級程度のものならばある程度訓練を受けた兵士は使えるはずだ。それがソルジャーになるための最低条件でもある。
「一般兵は、常時マテリアを所持することは原則禁止されている。そんな人間にマテリアを渡して治療してもらいたいと思うか?」
思わない。マテリアが暴走することは稀だが、起きないわけでは無い。
自分の身をもって体験するのは嫌だ。
「ソルジャーは己の適性にあったものを平常時でも最低2つは装備しているものだが……」
そこでセフィロスはやれやれと言った風に溜息をついた。
「ザックスを見ればわかるように、ソルジャーの大部分は『戦闘馬鹿』だ。それを反映してか、攻撃属性のマテリアにのみ適性を見出すものがほとんどだ。治療系は目もあてられん」
「……そうなんですか?」
「ああ。ザックスなどソルジャー始まって以来の最低ランクだ。ザックスの魔法攻撃なぞお前の足元にも及ばんだろう。おまけに精度も最低だ」
「最低ですいませんねっ!男は拳で勝負って昔から決まってんだよっ!」
「それでサーに負けてたら意味ないじゃん」
「!!」
痛恨の一撃を受けたザックスは、足元をふらつかせ壁に頭を打ち付けた。
「それからお前にとっては、重要な要因がある」
「何ですか?」
ザックスを再起不能にさせたクラウドは、意味ありげな言葉に真剣に聞き入った。
「マテリアの回復は体内の細胞を活性化させることで、自己治癒能力を驚異的なスピードに上げて修復する。痛みなどは無いぶん自覚症状は現れないが、体には負担となる。それをまだ成熟していないお前のような子供に頻繁に使用すると成長を阻害する恐れもある」
クラウドは、セフィロスが言いたいことに気づいて……視線がきつくなった。
その視線に、にやりと笑う。
「つまりお前の身長もそのまま、という恐ろしい事態が待っているわけだ」
「…………」
身長はクラウドの密かなるコンプレックスの一つである。
面白そうにしているセフィロスを睨みつけながらも、クラウドは心の中でマテリアには頼りすぎないようにしようと決意した。
「質問は以上か?」
「はい。あ、」
「何だ」
セフィロスに対しても物怖じせずはっきりと用件を告げるクラウドにはしては珍しく言い渋っている様子に、こちらも他人のことなど全く気にしないはずのセフィロスが先を促す。
「……また」
視線を彷徨わせていたクラウドが、促され……セフィロスに視線を定めた。
真っ直ぐに、意志強く、澄みわたるアイスブルーに、セフィロスは眩暈さえ覚える。
「勝負していただけますか?」
ソルジャーさえ恐れるセフィロスに、一歩も引かぬ態度と視線。揺るがぬ意志。
「望むところだ」
ザックスが目を瞠るほどに、セフィロスは穏やかに笑っていた。