Beauty and Beast 3


「サー、あと5分で目的地上空です」
「わかった」
 飛行士の報告に頷いたセフィロスがソルジャーたちを見た。
「目的地上空に到着したら、この機体は着陸せずにここから少しばかり離れたアイシクルエリアの神羅基地のほうへ向かう」
 このとき、は?と首を傾げたのはクラウド一人だった。
 つまり、着陸すれば敵に察知される可能性が高く、それを回避するために自分たちだけが機体から下りるのだ。
 こんな状況はよくあることなのか、ソルジャーたちも了解と頷いている。
 だが。

「パラシュートは無い。各自自力で下りろ」
 
 装備を点検していたソルジャーたちの手が止まった。
 有りえないほどにぎこちない動きでセフィロスを見る。
 そのセフィロスは、相変わらず何を考えているのかわからないアルカイックな笑みを浮かべている。
「クラウドは心配するな。オレが何とかしてやる」
 恩着せがましい言い方だが、確かにクラウドも自分ひとりでこんなところから飛び降りれば、20秒後あたりには死体が一つ出来上がっていることくらい理解している。
「……よろしくお願いします」
 自分もソルジャーであれば、一人で大丈夫だっただろうに、少し悔しい。
 こんなところから、補助器具も無しで飛び降りても何ともないとはさすが、ソルジャーは違う。
 そう納得して、ソルジャーになるという決意をあらたにするクラウドだったが……。

いやいやいやいや、ちょぉ待てっ旦那!」

 他のソルジャーと同じように引きつった顔で動きを止めていたザックスがいち早く復活してセフィロスにもの申す。
「オレらに、ここからヒモなしバンジーやれっつーんですか!?」
「別に頭から落ちろとは言っていない」
「言ってるも同然だっつーの!モンスターに遭う前に大量のソルジャーの死体を作るつもりかっあんたは!!」
「意味がわからんぞ、ザックス」
「がぁ~~~~~~っ!!何の補助器具も無しにこんなところから飛び降りて無事で居られるのはあんた一人だけだって言ってんだよっ!!!!」
 ザックスが苛立ちハリネズミのような頭を掻き毟る。
「え?無理なの?」
 当然出来ると思いこんでいたクラウドが、悪意なく無邪気に問いかける。
 何やら、『そんなことも出来ないなんて、たいしたことない男ね!』なんて女にフラれた時のような心持になってしまうが、当然それはただのザックスの被害妄想だ。クラウドの言葉がどれほどザックスの胸をえぐろうと、クラウド本人には、それほどきついことを言っているなど全く自覚していない。
 天然て恐ろしいな、と遣り取りを見守っていたソルジャー連中は思った。


「ちょっとした冗談だ」


 そして、またとどめの終止符を英雄は打った。

「……冗、談……?」
「ちゃんとパラシュートは用意してある。安心したか?」
「……」
「少々緊張していたようだからリラックス効果を狙ってみた」
 クラウドと違い、セフィロスは天然などでは無く……どこまでも悪意と児戯に満ち溢れている。
 ザックスはふるふると体を震わせながら叫んだ。



よけい疲労するわーーっ!!!!





















 ちょっとしたデモンストレーションがあったものの、全員無事に地上に降り立った。

 機内で、ソルジャーは三つのチームに振り分けられ、降下ポイントも異なる。
 これまでの報告を分析されてモンスターが出現すると思われる位置は確定している。その場所を三方から迫り、逃げ場をなくして叩くというわけだ。
 正面をいくのはもちろん、セフィロスをリーダーとし、クラウドも入っている。
 ザックスは背後からモンスターを威嚇する役目の2チームのうちの1チームのリーダーに選ばれたわけだが、最後の最後までしぶっていた。そんなにモンスターと戦いたくて仕方ないのか、血の気の多い奴だな・・・とクラウドたちは思っていたが、実際のところは守ろうと決意した本人から離れてしまっては全く意味が無いからだ。
 ザックスの内心を一番理解していたのはセフィロスだったろう。
 だからこそ一足早く降下ポイントに達したザックスは、下り際に         

 『死なせたら殺す』

 などと物騒な言葉を投げかけた。
 セフィロスは氷の微笑でその言葉を受け流し、クラウドはさっさと行けと蹴りだした。
 つくづく報われない男なのかもしれない。


「クラウド、なかなか山歩きがうまいな」
「山の中の村で育ちましたから」
 もくもくと木々の間を行進しながら、セフィロスが話しかけてくる。セフィロスの口調には、最初から変化は無い。
 いや・・・そもそも、この英雄が口調を変化させるときがあるのかどうかそれさえ疑問だ。
 一方のクラウドの息は、徐々にではあるが上がってきている。
 山歩きが慣れているとはいっても普通に比べれば上というだけで、ソルジャーの行軍についていくにはぎりぎり足りるか足りないかと言ったところだ。それでもクラウドは絶対に無様なところを見せるつもりは無い。途中で弱音を吐くつもりも、渡されたマテリアも一度も使わずに終わらせてやると決意していた。

「これを渡しておこう」
「……マテリア、ですか?」
「腕輪にもう一穴開いていただろう。おさまりが悪い」
「……。……そうです、ね」
 そんな理由で、今までマテリアなんて一度も触れたことのないクラウドにひょいひょいマテリアを渡す上司という
のは果たして信頼しても大丈夫なのだろうか……。
「何のマテリアですか?」
「冷気のマテリアだ。使えるならば使っても構わんぞ。ただし味方には向けるなよ」
 くくくっと笑いを漏らしたセフィロスに、ムカッとした。
 人の気に障るような言動をさせたらきっと世界一だ。クラウドは心の中でそう決めた。
「ありがとうございます、サー」

 目にもの見せてやる。